第15話 三人のタッグ
「やっぱり橘は呼び出されたんじゃないかと思うんだ。でもスマホにもメールは残っていなかったようだし、どうやって連絡を取っていたんだろう。」
「メールが来るたびに消去していたとか…ですかねえ…あと、おなじ職場ならメモを渡すなんてアナログな方法も出来ますよ。」
「メモか…メールは消去しても専門家が調べれば復活させる事が出来るって、何かの
サスペンスドラマでやってた様な気がするし…」
「私ちょっと思い出した事があるんです。6月頃、私と美由は新しく出来たパンケーキのお店に行ったんです。その時、美由が鞄からハンカチを取り出した時に 小さな
丸まった紙が一緒に出て来て床に落ちたんです。美由は慌ててそれを拾い上げて鞄に
戻したんです。大事なものの様に…でも、クシャクシャに丸めてあるんですよ。
ひょっとしたらそれが連絡メモなんじゃないかと思うんです。」
「社内でもらったメモ紙を鞄に入れていたって事か、社内で捨てずに持ち帰って
自宅で捨てていたのかもな。じゃあ、あの日ももらっていたはずだが警察が調べても
そんな物は無かったようだが…調べられる前に持ち去ったか…」
「だったら、営業2課の監視カメラに映っていないでしょうか?」
「映像が残っていればな、もう4か月も経つし…」
「でも屋上の映像はあったんですよね。」
「あれは警察に提出したものだから残っていたんだよ。でも一応菅原さんに聞いてみるか、」
「菅原さん?」
「警備の責任者、力になってくれるそうだ。」
「へえー、心強いですねぇ」
「君も協力してくれるし、何か凄く希望が持てる気がするんだ。」
「そうですよ、斎藤さんはこんな地下の倉庫のような所で仕事をする人じゃないですよ。美由も凄く褒めてましたよ、仕事が出来るって…」
「何だよ、調子いいなあ、」
「すみません。」
「ちょっと警備室に行って来る。」
「私も一緒にいいですか? 菅原さんを紹介して下さい。」
俺は桜井を見つめた。何なんだこの子は、やたらやる気を出しているじゃないか。
備品室に鍵をかけ、俺はパソコンをかかえて警備室へ向かった。後ろから桜井もちょこちょこついて来る。
警備室のドアをノックした。「はい、」と菅原さんの渋い声がした。
ドアが開かれ俺の顔を見るなり「どうされました?何かありましたか?」と聞いた。
「あのー、8月2日の各部署の監視カメラの映像は残っていないでしょうか?」
俺より先に桜井が聞いた。 菅原さんは驚いて桜井を見て、俺を見た。
「橘の友達だった桜井恵と言います。私が橘の事を調べていると知って、手伝うと言ってくれて…」
その時、菅原さんの視線が俺たちの後方に向けられ、一瞬険しい表情になった。
「中に入って聞きましょう。」
俺と桜井は後ろを振り向いたが誰もいなかった。 警備室の中に入ると菅原さんが
「誰か私達の様子を伺っていました。」と言った。
「木村課長…なのかなあ…」
「おそらく…」
「木村課長をご存知なんですか?」
「この会社の役職についておられる方の顔と名前は記憶しております。」
「わあ~、プロですねぇ」と桜井が明るく言った。どうも緊張感が桜井にはない。
「いや~、」褒められて菅原さんもまんざらでもない。
「さっきの件ですが、もう4か月も前の事ですから、先程お渡しした屋上のデータ以外は残っていません。何を調べたかったのですか?」
「あの日、橘は誰かに呼ばれて屋上に行ったんだと思うんです。スマホにもメールが
残っていなかったのなら、ひょっとしてメモを渡されたんじゃないかと思いまして、
桜井は橘の鞄の中に丸められた紙が入っていたのを見たことがあるそうなんです。」
桜井は大きく頷いた。そして、俺の話したかった続きを桜井が続けた。
「だからぁ、美由の持ち物の中にメモが入っていなかったのなら、犯人が犯行後に
持ち去ったんじゃないかと思ったんです。 営業2課のあの日のカメラの映像に美由の鞄からメモを持ち出す姿が映ってはいないかと思い、確認したかったんです。」
「どうしてそう思うのですか? 自分の意志で屋上に行ったかもしれないじゃないですか。」
「これを見て下さい。」
俺は菅原さんに貸してもらった8月2日のカメラの映像を見せた。
「この小さな三角の物はドアの一部ではないかと思っています。これは橘が屋上に行った時刻より12分位前です。だから先に誰かがもう屋上にいたと思われます。」
「あそこのカメラはドアの真上に設置されていますが、人一人カメラに映らないように通れるって事ですか?」
「そうです。ドアを少し開けてそれ以上開かないように手でドアノブを持って、壁に沿って横に歩くと映らないんじゃないかと思うんです。でもちょっとだけドアが動いた時に この様にドアの一部が映ったんじゃないかと…」
「それじゃあ監視カメラの設置の仕方に随分問題がありますね。」
「実験して見ますか?」と俺は提案した。そして桜井に言った。
「桜井さん、上に着いたら電話しますから ここで菅原さんとモニターを見ていて下さい。」
「はい!」元気いっぱいの返事だ。
俺は急いでエレベーターまで行きℝのボタンを押した。屋上に着くとドアを開ける前に桜井に電話を入れた。
「今からカメラに映らないように屋上に出てみるから モニターをよーく見ていて下さい。」
ドアを開けると自分の身体の厚み以上に開かないように しっかり身体に密着させ、背中は建物の壁にピッタリと付けて 横に身体をスライドさせて歩いた。
一度屋上に出て、再びドアを少しだけ開けて 今度は逆の動きで建物の中に戻った。
上手く出来たと思った。急いで警備室に向かい、菅原さんと桜井の反応に期待した。
警備室のドアを開けると、二人が何か言いたそうに俺を見て笑っている。
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