第14話 5ミリの三角形
菅原さんに礼を言って 俺は地下の備品室に戻った。昼飯も食ってないのに空腹は感じない すぐに調査を開始した。
映像を見ていると 橘がドアを開けて屋上に来た姿が映ってた。このカメラは屋上の
西側にある出入り口の上に取り付けてあるので 開いたドアの3分の1位が映っており橘も1~2歩 歩いた所の頭部から映っていて そのまま飛び降りた方向に歩いている。 そして、時刻は夕方なので西側から写していると建物の影が長く伸びている
これだったらドアを少しだけ開いてすり抜ける様に出て 壁に沿って歩けば映らないんじゃないかと思った。影も映らないだろう。
橘が飛び降りる前後10分位を ひたすらジッと見てみた。 こういう作業は根気がいる。ずっと同じ映像を見ているのは飽きるし眠くなってくるが俺は必死だった。
真剣に見たが分からない。もう一回だ。今度は前後15分位を見ることにした。
橘が屋上に上がって来る15分前から見ていると、3分位した頃「ん?」と思う瞬間が
あった。 もう一度戻して見てみると やはり一瞬だが映像の下のほんの一部に灰色の小さな物が現れて消えたのだ。大きさは5ミリ位の直角三角形に見える。
「なんだこれ?」 よーく見てみるとドアの角ではないかと思われた。「ドアの角…」 おそらくカメラに映らない様に 少しだけ開けたドアを抑えながら横に
スライドして出ようとした時 ドアが動いたのではないかと思われる。
画面のほとんどが建物の影だが 晴れた日だったのでドアの端っこはわりと分かりやすい。警察はこれを見逃したのか… それともここまでみていないのか… まあ、おそらく自殺だろうと思いながら捜査すると そんな物なのかもしれない。
証拠探しに懸命になって気付くのが遅くなってしまったが、パソコンにメールが一件入っていた。秘書課からLED電球の交換依頼だった。 珍しいが長持ちするLED電球でも切れる事はある。早速電球と脚立を持って5階まで上がった。
秘書課のドアを開けると何だか今までと違う。 嫌悪に満ちた視線を向けられていたのに今日は皆さん素っ気ない、あの写真を見たせいか? 橘の相手が木村課長かもしれないと思い始めたのではないだろうか。
桜井恵が俺の傍にやってきて天井を指差した。
「あそことあそこの2か所です。よろしくお願いします。」
「分かった。」
俺は脚立に上がって電球を取り替えた。2本目を取り替えて脚立から降りた時、一人の女性が俺の前にやってきた。この秘書課のお局様的な存在で確か安達と言う女性だ
「斉藤さん、前回来られた時私たちに随分な捨て台詞を言われましたが、私達あなたに何もしていないし 何も言っていませんよね。」
開き直ってきたかと思ったが 俺も負けていられない。
「…あんた、秘書課なんだろ? 相手の気持ちが分からない人間が秘書なんかできるのか?言葉に出さなくてもあんた達の態度は 充分俺を苦しめたけどね…」
「何言ってるの? 私達はあなたに覚えてろよ!なんて言われる様な事は何もしていないって言ってるのよ。」
安達さんは むきになって言い返すが腰が引けてる。俺に恐怖を感じているのか?
「ふん、フフフ…」
「何よ!何がおかしいのよ!」
「心配しなくても何もしやしませんよ。俺は必ず真実を明らかにする。その時はあんた達にも少しは反省してもらいたいと思ってるだけだ。」
「その時は悪かったと思うわよ、今も少しは思ってる。」
「フフフ…それがその態度? 良くわかんねえなぁ、まあいい、桜井さんが協力して
くれるって言うんで 時々借りますよ。もちろん勤務時間外の事。」
と俺が言うと、桜井が来て言った。
「私…美由が内緒にしていたのはなぜか考えたんです。斉藤さんなら私に話してくれても何の問題もないですよね。話せない相手って誰?と思ったら…」
「不倫……」誰からともなくそんな言葉が飛び交い、秘書課はざわついた。
もう、誰も橘の相手が俺だと思う者はいないようだ。流れが変わるという事は こう言うことなんだ。全く笑ってしまうよな、こんなことで俺は死んでしまったのか…
情けなくて泣けて来る。
「桜井さん、仕事が終わったら地下の備品室に来てくれないか?見て欲しい物が
あるんだ。」
「はい、」 6時を過ぎると桜井が地下に降りてきた。
「何かわかりましたか?」
「うん、警備の責任者に頼み込んで 橘が飛び降りた日の監視カメラのデータを貸してもらったんだ。ここを見てくれ、」
俺は画面下の部分に ほんのわずかに映った小さな三角を示した。
「何ですか?これ…」
「ドアの角だと思う、監視カメラに映らないように 少しだけドアを開けて壁に沿って横歩きしたんじゃないかと思うんだ。でもちょっとだけドアが動いて この角が映ったんじゃないかと… これは橘が屋上に行った12分位前なんだよ。この前屋上に行ってみたんだけど、フェンスも低いんだよね。」
「屋上に行ったんですか?」
「ああ、今まで一度も上がった事がなかったから、どんな感じなのか見にいったんだよ。」
「斉藤さん……信じてもらえないって辛いですよね。自分がこんな目に合ったら死にたくなると思うんです。本当にごめんなさい。」
「……いや、大丈夫だ……」 俺はもう死んでいるんだよと心の中で叫んだ。
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