第10話 見つけた!
俺は待っている間、ベンチに寝転がってうつらうつらしていた。
「こら、起きて!」と涼子に起こされた。 起き上がって
「寝てないよ…」と言うと「うそ、まあいいわ、ちょっとだけ収穫があったわよ。」
「えっ?なになに…」
「もう…傷心のお母さんに噓をつくのは 本当に心苦しかったんだからね。」
「ごめん…」 不平を言いながらも涼子は カレンダーや指輪にKの文字があった事を話してくれた。
「そっかあ… やっぱKかぁ… 木村課長って木村浩一で K・Kなんだ。」
「そうなんだ……それとね、5月のゴールデンウイーク明けの土日に 鎌倉へ出かけたそうよ。」
「鎌倉へ5月に… それって、」
「そうよ、私達も行ったよね。木村課長が気にしている事って そこにあるんじゃないかしら 鎌倉で美由さん、写真を沢山撮っているんだけど 全部景色と美由さんばかりなんだって、お母さん、不思議がっていらした。それに自撮りじゃないのよ、
誰かが美由さんを撮っているのよ。」
「うーん、俺達、何かいけない物を撮っているのか? その同伴者はよほど写真を撮られたくないみたいだな。」
「そうね、スマホの画像を見てみようよ。どこだろう大仏かなぁ、江ノ島かなぁ、」
「とにかく、一つ一つじっくり見てみよう。」
あの日、俺達はお互いのスマホで お互いを撮ったり、二人一緒の自撮りをしたり、
およそ50枚くらい撮っていた。
「後ろに映り込んだ人中心に 調べてくれよ。」
俺達は丁寧に画像をチェックしたが、それらしき人物は映っていなかった。
「いないわね、絶対当たりだと思ったんだけど…」
「でも、Kが課長である事は 間違いないと思うよ。」
「そうかもしれないけど、証拠がないとね。」
「そうだね… 今日はもう買い物をして帰ろうか、」と俺が言うと
「夕食は海鮮鍋にしようよ。」と涼子が言った。
「うん、うん、いいねえ、」
「よし、今日も猫にならないうちに早め、早めでね。」
俺達は、スーパーに行って海鮮鍋の材料をいろいろ買って、アパートに帰るとふたりで台所に立ち、鍋の準備を始めた。
「明日は 優の部屋の片づけをしようよ。」
「うん、ありがとう。早めにかたずけておかないと、どんな事が起こるか分からない
ものな。不思議だな 以前は先延ばしにしても何とも思わなかったんだけど、今は
先のことが見えないので やれることは早くやっとこうと思うんだ。」
「そうね、先に何が起こるか分からないものね。それにしても、自殺してそれっきり
だったら、誰がアパートの後始末をしたのかしらね。」
「お袋じゃないかな、」
「優はご両親に遺書を残したの?」 「うん、今も持ってる。」
「私には?」 「ん?」
「私宛の遺書は書いたの?」 「書いたよ。」
「見せて、」 「今はダメ!」
「書いてないんでしょ、」 「信じないんだなあ」
俺は 鞄の中から3通の封書を出した。ひとつは(xx社の皆様へ)二つ目は(父さん母さんへ)最後は(涼子へ) それを見て涼子は涙を流した。
「どうしたんだよ、」
「私、優が目の前にいるから 死んじゃったって実感がなかったんだけど、なんか
急に切なくなっちゃった… それ、見せて、」
「ダメだよ! もし俺が消えたら その時は見てくれ、さあ、めし食おうぜ」
「…うん、」
俺は以前と食べ物の好みが違っている。やはり、猫だからなのか、熱いものもダメなので別皿に取って 冷ましてから食べている。
「タラ、うまいなあ、」
「私の分もあげるよ。」
「やったー!」
「もっとゆっくり食べたら? ほら、顎に魚がついてるよ……あっ、」
「どうした?」
「今、思い出したの。あの日動画も撮ってる。ほら、鎌倉の町でソフトクリームを食べたでしょ、あの時優が鼻の頭にクリーム付けてふざけてたので 私スマホで動画を
撮ったのよ。」
「ああ、そうだった。」
涼子はテーブルの上に置いたスマホを手に取り 動画の画面を睨み付けるように見ている。
「あっ! 喫茶店の中にいる人…美由さんじゃないかなぁ、遺影の写真と同じ服に
見えるよ、」
「どれ、どれ、」 俺は涼子の顔に自分の顔をくっつける様にして覗き込んだ。
ふざけて笑っている俺の後方に 喫茶店の窓が映っていて、男女が向かい合って
座っている。 確かに女性は橘美由に見えるし、男性は木村課長だ。
俺の後ろ姿を見て、険しい表情になっている様に見える。
「男は木村課長だ。間違いない。」
俺と涼子は 顔を見合わせてハイタッチをした。
「やったね!見つけたね、」
「ああ、やったな…」
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