第8話 次の一手
その後俺は ゆっくりとコーヒータイムを楽しみながら、なぜ社内じゃなくて
ここなんだ?と考えた。 おそらく人に聞かれたくないし、地下の倉庫じゃあ逆上
した俺から 何をされるか分からないと思ったんだろうな。
しかし、このままだと課長からどんな反撃を受けるか分からない。俺も何か考えないと、会社から追い出されかねない。今の俺が責任を問われることと言えば、倉庫から
備品がなくなる盗難又は横領だろう。やはり、監視カメラを付けておくか。これ以上
罪を着せられたらたまらない。
会社に帰る前に、家電量販店によってカメラを購入した。
「なんで俺がこんな物を買わなきゃいけないんだよ、まったくムカつく!」
だが、背に腹は代えられない、自分を守るためだ。
会社に帰ると、自分の居場所の備品室に戻り、早速カメラを取り付けた。これで課長が何か仕掛けて来ても大丈夫だ。まさかカメラが付けてあるとは思わないだろう。
この日は何のメールも入ってこなかったが、前のように落ち込む事はない。
生きている間に この心境になれなかった事が悔しい。
6時になると昨日と同じ様に すぐに涼子のアパートに直行した。今日はいつ帰って来るのかなあと思いながら歩いた。猫になる前、人間の時に会いたいから。
歩いて電車に乗って 降りたらまた歩いて 涼子のアパートに到着だ。合鍵を使って
部屋に入ろうとしたら、鍵がかかっていなかった。帰っているのか?
思いっきりドアを開けたら、涼子がいた。
「涼子、ただいま! 早かったんだね。」
「今日はね、お客様が早く切れたので、仮病を使って早退させてもらったの、」
「ええ? 仮病?」
「うん、人間の優と一緒に食事をしたかったから、」
「涼子おー、やっぱ涼子は最高だな。」
夕食の支度をしている涼子を後ろから抱きしめた。
「俺、アパートを引き払おうと思っているんだ。今度、片付けるの手伝ってくれないか?」
「ずっとここに住むって事?」 「ダメ?」
「いいわよ、夕食の支度を手伝ってくれたらね。」
「うん、やるやる、何したらいい?」
「鯛の切り身を買って来たの、ロースターで焼いてくれる?」
「ん? 鯛の切り身って 涼子は魚が苦手だったんじゃあ・・・」
「大丈夫、好きになる。だって彼氏が猫だからね。」
俺はもう一度、後ろから抱きしめた。
「ごめんな、気を使わせて・・・魚、食べたかったんだ。ありがとう、前は肉が好きだったのにな。でも肉も食べるよ。 それから、もう一つ頼みたい事があるんだ。
明日の休みに一緒に行って欲しい所があるんだけど・・・」
涼子は味噌汁を作りながら 俺の話を聞いてくれた。
「橘美由の自宅に行って欲しいんだ。」 「私が?」
「うん、近くまで一緒に行くけど、俺が行くと お母さんに警戒されると思うから、
涼子が友達のふりをして行って欲しいんだ。」
「ええ? 無理よ・・・」
「俺、今、戦っているんだ。木村課長と」 「戦いって・・・」
「自殺した橘のお腹の子の父親は 木村課長じゃないかと思ってる。だから、証拠が
欲しいんだ。」
「証拠って・・・自宅に行って何をするのよ。」
「橘に貸してる本があるとかなんとか言って、部屋に入れてもらって 探して欲しいんだ。」
「探すって、何を?」
「何をって、証拠だよ。」
「私、探偵じゃないから、わからないよ。橘さんってどんな人だったの?」
俺は以前、食事をした時に写したスマホの画像を涼子に見せた。
「ふーん、結構可愛いのね。」
「俺は誓って仕事上の付き合いだけだったから、」
「私…この人に何となく見覚えがあるような気がする。」
「えっ? 本当か?」
「でも、思い出せない・・・んー、やっぱ無理!明日探偵の真似事をしてみるか、」
「本当に? ありがとう、やっぱ涼子だなあ、」
「おだてるな!」
その後、俺達は早めの夕食を済ませ、早めの風呂に入って、早めのベッドインをした
「忙しいね。後一時間くらいしたら、また猫になっちゃうの?」
「多分…」
「私、見てて大丈夫かなぁ、ショックうけないかなぁ」
「目を閉じててくれよ、本当の事言うと俺もちょっと心配なんだ。」
「何が?」
「出来るのかなぁ…て、」
「そっかあ・・・・私…抱きしめてくれるだけでも、充分幸せだよ。」
「涼子…俺バカだなぁ、なんで死のうと思ったんだ…こんないい彼女がいるのに…」
涼子を抱きしめてキスをして、胸をまさぐっていると、
「ああ…興奮して来た。できそう…」 「バカ、」
今夜も最後は 一人と一匹で仲良く眠りについた。
翌日の土曜日、俺と涼子は 始めに不動産会社へ行き、アパートを今月中で引き払う旨を伝えた。そしてリサイクルショップに行き、家具家電を買って欲しいと伝えた。涼子の部屋には 衣類以外何も持って行かない事にしたので 買ってもらえない
物はゴミとして処分する事にした。
その後、二人で橘の自宅の近くまで行き 俺は近くの公園で待っていることにした。
「ドキドキするなぁ、怪しまれないかなぁ」涼子は心配そうだった。
「よ!女優!うまくやれよ、」と言うと
「もうー、」ちょっと睨まれた。
「ブックカバーをつけた私の本を持ってきたのよ。彼女の本を持って帰る訳にはいかないから、それとお供えするお菓子も・・先ずはお線香をあげさせて下さいでしょ」
「ああ、それでさっき和菓子屋に寄ったのかぁ、さすがだね。」
「ねえ、橘さんってどこの大学だったの?」
「あー確か・・法明大だったかなぁ…」
「言わないほうがよさそうね、じゃあ、行ってくるね。ちゃんとここで待っててよ、
雌猫がいても付いて行ったらダメよ、」
「うわー!ブラックジョーク!」
涼子は 公園から200メートルくらい離れた橘の自宅へ向かった。
俺は木陰にあるベンチに座って 大人しく待っている事にした。
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