第4話 人間に戻ったぁ~

       ー翌朝ー

 ビリリリ・・・目覚まし時計がなり、涼子がボタンを押してベルは止まった。

部屋には朝日が差し込んでいる。

「きゃあー!」涼子が悲鳴を上げた。何かに驚いている。

「どうした?どうした? ゴキブリでも出たかぁ?」

そう言った自分に今度は俺が驚いた。 俺、言葉を喋ってる・・・・

あっ! 人間の手だ、人間のアシだ、そして俺、裸・・・・だ。 

涼子は俺に驚いていたのだ。

「いつ来たのよ、いくら合鍵を持っているからって 黙ってベッドに入り込むなんて

しかも裸! 服を着てよ!」

「俺、人間だよな・・」

「なに言ってるの、決まってるでしょ! 人間じゃなかったら何なのよ。」

「猫・・・」

「え?猫? あっ、昨夜の猫、どこに行ったのかしら」

「あの猫が俺、」

「冗談言わないで、とにかく服を着て・・・どこに脱いだの?」

「俺の着替え、いくらか持ってきてたよな。下着とパンツとワイシャツを出してくれないか?」

「え~どういうこと?」涼子はチェストの引き出しを開けて俺の下着を出してくれた

「ねえ、私、なにがなんだか分からないんだけど・・・」

クローゼットで俺のパンツとワイシャツを探しながら涼子が言った。

「説明しても信じられないと思うよ。俺も良く分からないんだ。でも多分、俺は死んでいると思う。」

バサッ、涼子が手に持ったパンツを落とした。

「な、何よ!脅かさないでよ。優が死んでるなら 今、私の目の前にいる優は何なのよ!」

「分からん・・・」 俺達は お互いを見つめ合ったまま、しばらく固まっていたが

俺が再び口を開いた。

「昨夜のおかかの猫まんま、美味しかったよ。」

「え?・・・あっ、あのお皿を見て分かったのね。変な事言わないで、」

小さな皿の中に おかかがついたご飯粒がいっぱい付いている。

「シャワーで洗ってくれて、ありがとう」

涼子の目は もうこれ以上開かないくらい大きく見開いている。 

俺は服を着ながら 涼子に話した。

「俺、昨夜 8階建ての雑居ビルから飛び降りたんだ・・・」 

「え?・・・」

「その時、俺の足に猫が飛びついて 一緒に落ちたんだ。」

「猫が・・・・」

「地上に着いたらゴミ箱の中で 俺は猫になっていたんだ。」

「ちょっと待って・・・にわかには信じられないわ。 今、気が付いたんだけど、優

髪を染めた? 急に現れてビックリして気が付かなかったけど、何だか昨夜の猫の

ような色だわ。」

俺は涼子の化粧台の鏡を見た。 あの猫の色と似ている。

「私、信じないといけないのかしら、でも、信じたら優が死んでるって認めることに

なるのよね。」

涼子は両手で俺を触って 確認している。俺の胸に耳をあてて 心臓の音を聞こうとしてきた。

「ん? 心臓動いているよ。めっちゃ速いけど・・・」

「そうなのか・・・やっぱり猫だからな」

「体温も 高そう・・・」

「猫だからな、」

「信じられないけど猫なの? いやいやいや噓、噓、そんなことあるはずがない。」

俺は真剣な顔で涼子を見つめた。

「本当なの?」  「うん、」

「私に何も言わずに死のうとしたの?」 俺は涼子を抱きしめた。

「ごめん、気持ちが落ち込んで何も考えられなくなったんだ。死んだら何もかも終わる。楽になれると思ってしまった。」

「私との事も終わりにしたかったの?」

「違う!ただ、今の俺じゃあ涼子を幸せに出来ないと思ってしまった。」

「会社なんて、辞めてしまえば良かったのよ!」

「それじゃあ負けだ、俺は何もしていないのに・・・」

「死んだら負けじゃん!」

「だから、屋上に手紙を残したんだ。恨み辛みをいっぱい書いて・・あっ、あの屋上に靴も鞄も手紙も全部置いたままだ。取りに行って来る。そのまま会社に行くから」

「ええ? 会社に行くの?」

「ああ、やっぱりこのままじゃあ悔しい、犯人を突き止めてやる。」

「死ぬ前にやって欲しかったわ。」

「そうだな、俺の人生、後悔だらけだ。とにかく急いで行くよ。誰かに見つけられたら厄介だから。 涼子、電車賃を貸してくれよ。財布も携帯も鞄に入れて屋上に

あるんだ。」

涼子が一万円と小銭をいくらか渡してくれた。

「ありがとう、財布があったら今夜返すよ。」

「もしなかったらすぐに警察に届けるのよ。カードなんかも入れておいたんでしょ」

「うん、分かった。」 

「優、私が協力出来る事があったら、何でも言って、」

「ありがとう、涼子・・・じゃあ、行って来るよ。」 

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