第2話 12月1日 その2

ここの仕事は、退職後再雇用された人から選ばれていた。その人が体調を崩して辞めてしまったので、俺がやる事になったようだが、どんな説明を受けても納得できるものではない。 俺は営業成績だって良い方だった。後輩の指導だってちゃんとやってた。なのになのに・・・・このまま ここで飼い殺しにされるのか、耐えられない

この先、涼子と結婚して子供をもうけ家庭を築くつもりだったのに こんな状況で

そんな未来は無理だろう。

あまり泣いたことのない俺だが涙が頬を伝う。自分の不運を呪い、生きていく意味が分からなくなってきた。 だから今俺はここに立っている。屋上のフェンスを越え外に出た。 夜の9時だから誰も俺に気がつかない。 下はクリスマスのイルミネーションでやたら明るい。 「きれいだなあ・・・」一人つぶやく、こんなキラキラした

明るい所へ俺は落ちていくのか・・・ 誰にも気が付かれないのは嫌なので この

繫華街に立つビルを選んだのだが、ちょっと後悔している。 一旦フェンスを越え元に戻った。裏に回って見ると表側ほど明るくはないが割と人通りがある。人を巻き添えにしてはいけない。 隣のビルとの間を覗いて見る。狭い通路だが2メートルくらいはある。ゴミ箱が何個か並んでいる。 死体があってもすぐには気づかれないかも

知れないが 明日の朝には誰か見つけるだろう。 ここでいいか・・・

そう思ってフェンスを越えようとした時、「ニャー」と猫の鳴き声が聞えた。

「こんな屋上に猫かよ」と思ったら、足元に来ていて俺の足にスリスリして来る。

「おい、やめろよ。俺はこれから飛び降りて死ぬんだから・・・随分人に慣れているんだなあ、このビルの人達に可愛がられているのか・・・いいなあお前は・・・

俺は勤め先の人たちからいじめられているんだよ。可哀想だろ、もう良いんだこれで終わる。ただ、恨み辛みはこの手紙に散々書いたよ。橘の死と俺は関係ない事も…

死の抗議だよ。フフフ…お前に言っても分からないよな。じゃあな、」

フェンスを越え下を見ると暗い、周りのイルミネーションの明かりでゴミ箱だけが

浮いて見える。

「やたら大きなゴミ箱だな・・・あそこに足から突っ込むか・・・」

じりじりと足を前に進める。足が半分ぐらい空中に出た時に倒れそうになって慌てて後ろに戻ってしまった。

「何やってるんだ。死ぬんだからどうだっていいだろう。」

こんな俺の動きに さっきの猫が興味を持っていた事に その時は気が付かなかった

猫はフェンスの間を通り抜け 俺の足元に来ていたようだ。

「そうだ、高飛び込みの選手の様に斜め前にジャンプしよう。そのままストンと下に

落ちるのだ。」 飛び降りる前に こんな事を考える奴がいるだろうか。

「フフフ…馬鹿だなあ 俺・・・」 思いっきり高く斜め前に飛んだ。

「痛――!」 猫が俺の足にしがみつき爪を立ててきた。 バカ猫!と思ったがもう遅い。俺と猫は一緒に落ちて行った。 落ちて行く…落ちて…落ちて……ん?

地上に激突しない??? ガサツ!「え?激突した?」衝撃がない……「臭い!」

ッ~ンと鼻をつく生ごみの匂い、「ここはゴミ箱の中かぁ?」

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