こたつの時間

第1話 出番

「はーい、圭太そこどいて」

　掛け毛布を持って居間に入ってきた私は、19歳の会社員　佐藤　亜樹（あき）。一応この話の主人公です。女ですよ。

　居間のふわふわカーペットで、ゴロゴロ横になりながら漫画を読んでいるのは、高校一年生の圭太（けいた）15歳。

　最近身体つきが大きくなってきて、横になっていると邪魔なんだよね。

「お！姉ちゃん、掛け布団出すの？」

「もう11月だもん。私の一存で出すことにした！」

「誰も反対しねぇって」

　とか言いながら、どいてくれない圭太を足で押しながら、こたつの準備をする私。

　我が家は平家の3LDK。私と圭太は、一応一人ずつ部屋は持っているけど、寝る時と勉強以外は結構居間にいる事が多い。

　部屋が四畳半でベッド置いてて、狭いってのがあるからかな。部屋持っていない子には贅沢って言われそうだけどね。

　冬場は特に居間に家族が揃う事が多くなる。

　理由はこたつだ。

　唯一置ける場所があるのが、三畳のカウンターキッチンに繋がっている、十畳の居間なんだよね。

　カウンターキッチンあるのに、我が家の食卓は年中座卓。

　そう六人用こたつの掛け布団なしバージョン。

　しっかり正座して食べなさいって、小さい頃から言われて育ったから、座布団に座る事のほうが落ち着くの。

　で、座る場所は決まってるんだ。

　お父さんがテレビの正面で、座椅子が置いてある場所。隣りがお母さん。窓際が圭太で壁際が私。

　こたつを出すと、圭太はすっぽりこたつの中に入るから、足が邪魔なんだったら。もう！

　セッティングして終わったら、早速入ってるし。

　まだ電気入れてないのに。

　カチン　　ゴォォォォ…

　うん、大丈夫みたいだね。

　今年もお世話になります。

　『お〜、あったかくなってきた』

　もう圭太ったらこたつに潜ってるから、声がくぐもって(こもって)聞こえる。

「ただいま〜。あら、なあに？掛け布団出したの？」

　ガサガサと買い物袋を両手に持って、パートから帰ってきたお母さん。

「お母さん、おかえり」『おかえり〜』

「なに？もう圭太こたつに潜っているの？」

「そうなんだよ。手伝いもしないで」

　フフッっと笑いながら、キッチンに買い物袋を置いてお母さんもこたつに入りにきた。

「もう〜、寒くなったわね。あ〜…… あったか〜い」

　お母さんも肩まですっぽり入ってきた。

　私も入ろっと。

「亜樹、良い時だしたね。寒いから鍋やろうとしてたんだよ」

「やった！何鍋？」

「豆乳鍋」

「「ええ〜！！」

　圭太も顔出して参加してきたけど、二人して非難の声。

「おでんは？しゃぶしゃぶは？すき焼きは？」

　圭太、あんた肉食べたいだけでしょうが。

「なによぉ、あんたたち！たまには母さんに合わせなさいよ」

「仕方ないなぁ」「良いよ、別に」

　お母さんはちょっとぷりぷり怒ってキッチンいっちゃったけど、実は好きなんだよね。豆乳鍋も。

　圭太はそのまま眠くなったのか、こたつで寝ちゃった。

　私は手伝ってこよっか。お母さんのご機嫌取りに。

「お母さん、手伝うよ」

「あら、珍しい。じゃ、白菜切ってくれる？」

「はーい」

　いつも仕事から帰ってくると、すぐ私たちの為に動いてくれるお母さん。ありがたいけど、いつまでも甘えていられないからね。

　キッチンで他愛のない話しや、今日のお母さんの職場の愚痴なんかを話しながら料理してると、車のバック音が聞こえてきた。

「お父さん帰ってきたかな」「そうね」

　お母さんは手を拭いて、パタパタ玄関に迎えに行く。これが私たち大きくなってもずっとこうだからなぁ。

　しばらくすると、部屋着に着替えたお父さんが居間に入ってくる。

「お！今日は鍋か。しかもこたつにしたのか」

　嬉しそうに指定の座椅子席に座って、あったまるお父さん。

「やっぱりいいな」と言いながら、キョロキョロ何かを探してる。

「ほら、お父さん」とお母さんがTVのリモコンを渡すと、笑顔で受け取りTVの電源をつけるお父さん。言わなくてもわかるんだもん。流石だよね。

　さて、出来た。

「お父さん、お酒お湯割りで良い？」

「あー、頼む」

　指定席に座るとお父さんって動かなくなるんだよね。ポットと専用コップにお酒を紙パックごともって行く。「悪いな」とか言いながら嬉しそうに受け取って飲んで、「プハァ」とか言ってる。美味しそう。

　「はーい、熱いからね」

　お母さんが鍋ごと持ってくる。

　たっぷりお肉に野菜に豆腐、ツミレに海老や帆立も入っている我が家の豆乳鍋。ウチは豆乳鍋はポン酢醤油につけて食べるの。

　これが進む進む。さっき起きたばっかりの圭太は食べ盛り。おかわり二回以上するんだよね。お父さんはじっくり派。お母さんは器用に給仕しながら食べるんだ。

　で、最後の楽しみ生うどん投入。これもうちはポン酢醤油を豆乳で薄めて食べるの。

「ん〜、満足！」

　食べてすぐ横になるのは良くないけど、こたつって横になりたくなるんだよね。「豚になるぞ」ってお父さん言わないの！

「りんご食べる？」ってお母さんもう剥いちゃってる。

　こたつが出ると食べちゃうんだよねぇ。困ったもんだ。