第36話【朗報】ボッキマン、お掃除ロボットを手に入れる その⑤

俺はバッタや肉の柱について説明した後、

ハカセコに監視カメラの映像を調べてもらっていた。


だが該当するような映像は見つからなかったようだ。


「は、はは、ははは。

 い、意図的に、しょ、消去されているようだな。

 おっ、おそらく、ここ、この街にとって、

 ふっ、ふっ、不都合な存在だからだろう」


「そうなのか……」


「し、しかし、だっ、誰かの、き、記憶やデバイスには、

 かっ、干渉できないからな。こっ、ここになくても、

 ど、どこかには存在するだろう。

 でで、ど、どうする気だ?ぼぼ、ぼ、ボッキマン」


「いや、それだけわかればいいよ、ありがとう」


俺はそう言って感謝したが、ハカセコは俺が戦ったという怪物について知りたいようだったので、戦いの様子や怪物の特徴について詳しく話してやった。


「じ、じっ、実際に戦ったお前から見て、

 そそ、そいつらと、わっ、私の王国の、騎士たちと、どっちが強かった?」

「うーん、ただの感想だけど……パンダグリエルだっけ?

 あのロボットならバッタにも柱にも勝てたと思う、かな……」


「そっ、そそ、そうか。やはりな。

 きっ、きき、貴様の言う通りだ。そっ、そ、そのような薄気味悪い怪物が、

 わ、私の騎士たちより、つっ、強いなど、

 あ、ありえんのだ、だっ、だが、きき、貴様の、はっ、話に出ていた、

 大型ロボットについては、かっかっ、確認しておきたかったな」


「まあ大きいって言っても10mくらいだったけどな、

 あんたはそういうのは作らないのか?」


「み、みみ、見た目だけで、いっ、いいなら、

 ごっ、ごご、50mでも作ることはできる。だだ、だが、

 でっ、でで、デカいだけの、役立たずは、ひっ、必要ない」


「確かにただの的になりそうだもんな……」


「そっ、そうだ。それに、きょっ、

 巨大なものを作るということは、た、たたっ、大量の材料が必要なのだ」


「まあそういえばそうだな」

俺はハカセコの言葉に納得した。


それからしばらく会話をした後、ハカセコはPCを閉じた。


「復讐計画の方はもう完成したのか?」

俺はハカセコに尋ねる。


「あ、ああ……。

 うん、か、完成した。た、ただ、き、貴様が、

 も、もっと強くならないと、意味がないものだ。

 だ、だからまだ実行はしない」


「そうなんだ。……じゃあもう帰るんだな」


「き、きき、貴様には世話になった。

 い、いい、一応礼を言っておく、だから……」


「だから?」


「こっ、ここ、これを、きき、貴様にあっ、ああ、預けておこうと思う」


ハカセコはそう言いながら手提げ袋から少し分厚い円盤状の何かを取り出した。


「なんだこれ」


俺は受け取ったそれを眺める。それは銀色に輝く金属でできており、じっと見ていると円盤から手のようなものが飛び出してきた。


「うぉっ!?」

突然の出来事に俺は驚いて飛び退いた。


ハカセコは俺の反応を見てニヤニヤと笑っている。


「きっ、きき、きっ、貴様は、

 へっ、部屋のゴミくらい、どっ、どうにかしろ。

 はっ、肺が、よっ、汚れるだろ。

 そ、そのお掃除ロボットの『ブラウニー』くんに、て、手伝ってもらえ」

「どうも、ブラウニーです。

 ボッキマンさん、よろしくお願いします」

ハカセコの説明と同時にブラウニーは挨拶してきた。


「おっ、おい、しゃべるのかこいつ?!」

「えっ、しゃべったらダメなんですか?」

「ききっ、き、貴様、わ、わがままを、いっ、言って、

 ぶっ、ぶぶ、ブラウニーくんを、こ、困らせるんじゃないぞ!」


「なんだよわがままって……

 別に掃除するのにしゃべるとかいらねえだろ……」

「しゃべらないと指示とかできないじゃないですか」

「うるせえ!」


「あ、あまり、きつく当たるな!

 ま、また、回収しにくるから、たっ、大切に扱うんだぞ!!」

「あ、おっ、おい!」

ハカセコはそう言ってさっさと俺の部屋から出ていった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺は部屋に戻りベッドの上で仰向けになりながらブラウニーが掃除する様子をぼんやり見ていた。


ハカセコが俺の部屋に置いて行ったのはいわゆる自動清掃ロボットだった。

掃除機のように吸い込み、拭いたり、掃いたりして綺麗にするだけでなく、床に落ちているごみを認識してそれを拾い上げる機能も付いているようだ。


俺が適当に置いておいたペットボトルなどの容器もすぐに見つけて片付けていく。


「なあ、聞いていいか?

 ハカセコ王国からやって来たお掃除ロボットのブラウニーくんは

 掃除以外の何ができるんだ?」

「えっ、掃除以外出来ませんよ?いけませんか?」

「ふーん。減らず口も叩けるみたいだし話相手くらい出来るんじゃないか?」

ブラウニーは俺の皮肉を無視して質問を返してくる。


「ハカセコってなんのことですか?」

「ハカセコってのはお前を作ったあいつの名前だよ」


「ああ、王様のことをハカセコって呼んでるんですね。

 どういう意味なんですか?」

「え、わかるだろ?こう、博士と子をくっつけて……」

「恥ずかしくないんですか?」


「うるせえ!」

「はあ、すみません」


「お前はどういう目的で作られてるんだ?」

「いやだから掃除ですけど……?

 物分かりは悪いし、ぶつぶつうるさいし、怒りっぽいし最悪だなこの人……」

「ふふ、ふ、ふ、ふ……!」

俺は怒りを抑えて冷静になる。


このブラウニーももしかしたらハカセコの復讐計画の一端なのかもしれない。


あいつはまだ実行しないとは言っていたが、その発言自体が油断させるためのブラフの可能性だってある。それとも本当に俺が喜ぶと思ってただの掃除ロボットを俺に預けたのか?


俺は疑いながらもブラウニーに話しかける。

「じゃあさっきの続きだけど、俺を掃除するつもりなのか?」

俺は単刀直入に聞いた。


「あなたを掃除?」

ブラウニーはロボットなので表情はわからないがどこか馬鹿にしたような雰囲気を感じる。


「ほら、映画とかであるだろ……

 邪魔な相手を殺すことを掃除するとか言ったり……そんな感じで……」

「普通の掃除に決まってるだろ……この人頭おかしいな……」


「ははは!はははは……!」

「えっ?」

「……も、もういい。邪魔したな、掃除を続けてくれていいぞ」


「はい。わかりました」

そう言うとブラウニーは静かになった。

俺は少し気まずい空気の中、横になって目を瞑る。


それからしばらく経つと風呂場から音が聞こえてきた。

どうやらブラウニーが浴槽を洗っているらしい。

俺は起き上がって様子を見に行く。


「お、おい、大丈夫か?無理すんなって」

「はあ?別に平気ですけど……」

「そ、そうか、ならいいんだ」

「それにしても狭い部屋ですね。これじゃ掃除しがいがありませんよ」

「……し、仕方ないだろ。貧乏なんだから」


俺はベッドに戻って再び寝転がる。

ブラウニーは浴槽を洗い終えると今度はトイレを掃除し始めた。

そして終わったと思ったらキッチンに行き冷蔵庫を開けて中のものをチェックしている。そんなことまでやるのか、と少し驚いてしまった。


「なあ、ブラウニー、王国いた時もずっと掃除してたのか?」

「はい、10万体の仲間と共に毎日掃除に明け暮れていました」

「じゅ、10万?!」

「嘘です。1000体です」

「おい!」


ブラウニーは掃除ロボットとしては高性能なようだが、話をする機能は余計なものかもしれない。


「なあ、ブラウニー……」

「なんだようるせえな、寝てろっつーんだよ。

 ……あっ、間違えた。はい、なんでしょうか、ボッキマン様」


「……ブラウニー、お前たちにはその……感情があるのか?」


「おれ……いえ、わたくしに感情はありませんよ。

 お掃除ロボットに感情は不必要なものですからね」

「そうなのかな……」

「はい。すべてはプログラムされた行動を取っているにすぎません」

「どんなプログラムだよ」


ブラウニーは鬱陶しそうに俺の相手をしながら掃除をしていたが、一通りの作業を終わると部屋の中をくるりと見渡し、やがて部屋の片隅で動かなくなる。

先ほどまでゴミの散らばっていた俺の部屋は見違えるように整頓され、床も壁も綺麗になっていた。


「ありがとう」

俺が礼を言っても返事することすら面倒なのか、

円盤の形に戻ったブラウニーは反応しない。


そして大量のゴミ袋を前に俺は途方にくれる。ブラウニーにはゴミ出し機能まではついていないようだった。


「はぁ……」

俺がかつて壊したロボットたちもブラウニーのように話をしたり誰かのために仕事をしたり、それに、冗談を言ったり愚痴ったりしていたのだろうか。


ため息をついても気分は晴れなかった。


俺の名はボッキマン。

無敵の力を持つ男。だが、それはあくまで肉体面の話だ。

俺は今、自分の弱さを痛感している。俺はそんな自分が嫌いだ。


だからいつも逃げている。

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