第29話【速報】ボッキマン、山に挑む その⑥

俺は攻撃のために体勢に立て直そうとするが、それを阻むように二人がかりの猛攻が続く。


俺は雷に何度も地面を叩きつけられながらも、瓦礫を拾い上げ、隙を見て雷の顔面を目掛け投げつけた。


鈍い音と共に瓦礫は粉々になり、雷の左側頭部が吹き飛ぶ。


「うぐっ、ぐぅううっ……!?」


それでも雷は俺の足を離さなかったが、流石に攻撃を続けることは出来ないようで顔面を抑えている。


俺は掴まれた反対側の踵を雷の手の甲に思い切り叩きつけると、雷の手から抜け出し立ち上がった。


「あんた?!」

稲妻は俺を無視して、雷に駆け寄ろうとするが、その前に俺は彼女の腹を横から蹴り飛ばす。


「かはぁっ……!!」

稲妻は口から血を吹き出しながら、その場に膝をついた。


俺はその光景を横目に見ながら男に話しかける。


「それでどうすればいいんだ?!」


「おっ、おっ、おおっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おおっ、お前は、

 ななな、何を言っている……?」


「……あんたはこの二人を本当に殺すつもりなのか」


「さささ、さっきも言ったろうが!

 こ、ここいつらを放置すれば、わ、わわ、災いを、もたらすと……!」


「……くそっ」

俺はそう言い放つと雷に向かって走り出したが、しかしそれよりも早く、

稲妻が雷の体に飛び込んでいた。


稲妻が触れた瞬間、雷の崩れた顔が修復し、みるみると元の形に戻っていく。


俺が驚いていると、雷は巨大な脚で俺の顎を蹴り上げた。

その凄まじい威力に俺は数十メートルの高さへと一瞬で打ち上げられる。


伝承の通り、こいつらは同時に殺さないとダメらしい。


俺は眼下で拳を引いて待ち構える雷に攻撃を繰り出そうするが、その直前、背後から強烈な衝撃を受け、俺は再び体勢崩してしまう。


見れば、俺の背後にはいつの間にか稲妻の姿があった。どうやら俺が蹴り飛ばされると同時に彼女は跳躍して距離を詰めてきたようだ。

稲妻は俺の背中に掌を押し当てると、そこから電撃を放った。


それは素早く俺の体内を巡り、神経を麻痺させようとする。そして無防備になった俺の顔面に雷の拳が蒸気を噴き上げながら飛んでくる。

俺は咄嵯に身を捻り、直撃を避けようとするが、頬に雷のパンチを喰らい、そのまま吹き飛んでしまった。


稲妻と雷の強烈なコンビネーション攻撃に為す術なく翻弄され倒されてしまった。


……だが、それでもボッキマンは無敵なのだ。


俺はあっさりと立ち上がると、顔についた泥を手で拭う。そんな俺の様子を見て、二人は驚きの声を上げる。


「あんた、大した化け物だね……」

「お前は何者なんだ?本当に人間か……?」


俺は雷と稲妻に答える。

「俺はボッキマン。無敵の力を持つ男だ」


「……そうかい。だったら、もう手加減はしないよ」

「ワシらも本気で相手をすることにしよう」


雷と稲妻は手を取り合うと全身からと青白い電光を発し、戦闘態勢に入る。


「なあ、一つ提案があるんだけど……」


「何だい?」


「このまま俺に殺されるのと、ここで静かに暮らすのとどっちがいい?」


俺の提案を聞いた途端、雷と稲妻は声を上げて笑った。


「わっはっはっはっ!面白いことを言う奴だな!」

「あたしらを舐めるんじゃないよ!命乞いでもすると思ったのかい?!」


俺は少し困ってしまう。本音を言うとこいつらのことは殺したくはないし、そもそも戦いたくないとすら思っていた。俺はこの二人が幸せに暮らせる場所があるならそれでいいと考え始めていたのだ。


「ここで静かに暮らそうとは思わないのか?」


「お前は強い、だがどこでどう暮らすかはワシら決めることだ。

 お前を殺してこの山を降り、ワシらを殺した大名の民共を一人残らず

 血祭にしなけりゃあならん」


「……あんたらが生きていた時代から数百年経っている、

 街のことはそっとしておけないのか?」


「あんたが何を思ってそんなことを言ってるのかわからないが、

 あたしらは誰の指図も受けるつもりはないよ」


「……そうか」

俺はそう言うと拳を引き構え、二人に再び問い直す。


「……それじゃあ、最後にもう一度だけ聞くぞ。

 静かに暮らしたいか?それとも俺と戦って殺されたいのか?」


「しつこいねぇ……あたしらが生きていようが死んでいようが、

 世の中どこにいたって災厄は続くんだ。

 今さらあたしらみたいな悪党を増えたからってどうだってんだ!」


「わかった。それが答えなんだな……」


彼らがその言葉を知っているかはどうかは知らないが、彼らは「自由」だった。


俺自身がそうであることを望み、結局は実現なんて出来そうにもない、

その「自由」を体現しているように思えた。


俺は二人の覚悟を受け止め、そして戦うことを選択した。


「……悪いな、恨んでくれて構わないぞ」


「ああ、まあ気にするな。ボッキマンとやら!」

「……うん、そうだ、仕方ないことだよ」

俺の言葉に、雷と稲妻も再び臨戦態勢に入った。


「行くぞ!!」

雷と稲妻が同時に攻撃を仕掛けてくる。俺は二人の攻撃を捌きながら、隙を見て攻撃に転じるが、その度に二人には避けられてしまう。


俺は二人が距離を取った瞬間を狙って、地面を思い切り殴りつけた。

地震のような激しい揺れと共に大地が割れ、瓦礫が飛び散る。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


それから戦いは数分間続いた。


ボッキマンになってから最も長く続いた戦いだった。


雷と稲妻の連携は凄まじかった。


俺の動きを完全に捉えていた。その上、俺の攻撃が二人のどちらかを負傷させても二人はすぐさま手を取り合い、互いを治療し合う。


だが俺は負けるわけにいかない。


俺の拳が雷の胸を貫き、彼の体が大きくよろめいた。それを見た稲妻が俺に襲いかかるが、俺は稲妻の腹に蹴りを叩き込む。


しかし、稲妻は血を吐きながら俺の足を掴み、逆に俺を引き寄せると、俺の顎に頭突きを繰り出した。脳が激しく揺さぶられ、視界が歪む。それでも俺はひるむことなく稲妻の顔面に拳を叩き込んだ。

稲妻の口から血が噴き出し、引きちぎれるように首が飛ぶ。


……それでも二人は死ななかった。


本当に、わずかなズレもなく、同時に殺さなければ二人は死なないようだ。雷と稲妻は互いに支え合い致命傷を瞬時に再生させ、またすぐに俺に挑みかかってくる。


俺は息をつく暇すら与えられず、ひたすらに拳を振るい続けた。


「もうやめろ!もういいだろ!

 あんたらだって勝ち目がないのはもうわかっただろ!」


俺の叫びにも雷と稲妻は一切耳を貸さない。


「ならお前が手を引けい!そうすればワシらもお前を見逃してやるわ!」

「……」


ここで俺が手を引いて戦いを止めても二人はいつか山を降り、街に現れて略奪と殺戮の歴史を再び繰り返すだろう。


その時、街の治安部隊の力で彼らを止められるのか?


あの大型ロボットたちでこの二人を制圧することはできるか?

ぬいは?神代はどうなる?


おそらく雷と稲妻の力の前に手も足も出せずに殺されてしまうはずだ。

そんな未来は見たくない。だからと言って俺はこいつらと戦う気にはどうしてもなれなかった。


俺は雷と稲妻を見つめる。


「俺はもうあんたらと戦いたくない……

 頼むからここで静かに暮らすと約束してくれ!」


「……なぜそこまでワシらに執着する?

 ワシらがどんな存在かもわかっておろうに」


「……確かにあんたらがどういう存在なのか、なんとなくわかってはいるつもりだ。 

 だがそれでも、あんたらを殺したくないんだ……

 俺にはあんたらが眩しく見えたんだよ」


雷と稲妻はしばらく無言でいたがやがて稲妻が口を開いた。


「バカな奴だねえ。悪党のあたしらなんかに憧れるなんてさ。

 あたしらが死んだってあんたが悲しんだり苦しんだりする必要はないんだよ?」


「そんなことはない。少なくとも俺は……悲しいんだよ……

 あんたらは愛し合っている、それを……俺は、邪魔したくはない」


俺は正直な気持ちを打ち明けた。


雷と稲妻は顔を見合わせると、呆れたような笑みを浮かべた。


「わっはっはっは、まったく、情けない奴だな。

 そんなことならお前は心配する必要などない。

 ワシらは二人同時にでなければ死なんからな。片方だけを残して死ぬこともない」


「……あんたの負けだよ、ボッキマン。観念するこったね。

 せめて苦しまないようにしてあげるよ」

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