第9話【朗報】ボッキマン、チンピラを後悔させていた その④

「あ、こんにちはー……」

部屋の前まで来ると、たまたま外に出ていた隣の部屋の女の人が挨拶してくれた。

女の人はびしょびしょに濡れた俺に心配そうに見ている。


「あの、大丈夫ですか?」

「あ、いや、そのちょっと転んで池に落ちちゃって……」

俺は咄嵯に嘘をつく。

正直に二人組に襲われたなんて話しても仕方ないだろうしな。


「えぇっ、池ですか……それは災難ですね。

 風邪ひかないようにしてくださいね……」

そこまで言うと、女の人は俺が勃起していることに気がついたようで驚いたような気まずいような顔をした。


「うわあ!すみません!大丈夫です!」

俺はそう言うと慌てて部屋に入り鍵をかける。


(あーあ、あいつらのせいで二重三重に恥かいちゃったよ……)

俺はため息をつくとベッドの上に寝っころがった。


しかし、あいつら何者なんだ?


今あらためて思えば、あいつらはドローンに追われてなかった。

俺みたいな不思議な力を持っているただの民間人ってわけでもないようだ。


俺は深く考えるのをやめ、スマホを取り出し奴らが言っていた組織の名前『きゅうごうかい』を検索する。

だがそれらしきものは何も出てこない。


早々に検索をあきらめた俺は動画サイトを開く。


と、言っても自慰をするわけではない。

ただの暇つぶしだ。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺の勃起は性欲とは無関係だ。


「勃起する」と思えば勃起する。それ以外でなければ勃起しない。

その事に気がついたのは中学生の頃だった。


思春期を迎えた友人たちや同級生は、やれ巨乳を見て勃っただの、朝立ちがどうだのと騒いでいたが俺にはピンとこなかった。

「勃起」という言葉自体は知っていたが、自分の股間が「勃起する」と思うこともなかった。

それが普通のことなのか異常な事なのか、当時の俺にとってはよくわからなかった。


ある日、友人の一人が「お前、オナニーしたことあるか?」と言ってきた。

正直あまり興味はなかったが、周りに合わせるためにやったことはないが興味はあると答えた。すると彼は俺に自分流のやり方を教えてくれた。まず、勃起を握る。そして上下に擦ると。


今思えば、彼の教え方はかなり雑なものだった。

だがその時俺は、楽しそうな彼を見てすいぶんいいものなんだな思った。


その日、家に帰った俺は彼の言う「オナニー」を早速試すことにした。

部屋の鍵を閉め、エロサイトを開き、絵画を鑑賞するかのように眺める。

だが、一向に俺のチンコは反応しなかった。


(何かやり方が違うのか……?)


俺は焦りながらチンコを掴み、上下に揺さぶった。

チンコは波間に漂う海藻のようにゆらゆらと揺れている。


しかしチンコに勃起しない。それに気持ちよくもない。

何故だ?どうやったら勃起できる?俺は必死で考えた。


そして、一つの結論に至った。


もしかすると俺のチンコは「勃起」を知らないのではないか?

だから「勃起」が出来ないのではないか?

ならばチンコに「勃起」を教えてやれば、俺にも「勃起」ができるかもしれない。


俺は心の中でチンコに呼び掛けた。


(チンコが固くなること、大きくなること、立ち上がること、それが勃起だ)

(お前なら出来る。勃て、勃つんだ!)


そして気が付いた時、俺のチンコは天を仰ぐようにそそり立っていた。


俺は感動に打ち震えていた。

(これが勃起……!!)

俺は生まれて初めて見る勃起した自分のチンコに釘付けになっていた。

今まで何の反応もなかったものが、今は脈打ち力強くその存在を主張している。


そして俺は恐る恐る「勃起」に手を伸ばし、友人の言う「オナニー」を始めたが特に気持ちよくはなかった。

ただ、「勃起」が出来ることを知った俺はそれだけで満足だった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


それからというもの、俺の生活は一変した。

俺は毎日「勃起」の練習をしていた。


目を閉じて座禅を組んで瞑想したり、時にはエロ動画を見続けたりもしたが、

結局「勃起する」とか「勃起しろ」と思う、あるいは「勃起」と念じるだけで「勃起」できることがわかった。


ただその事は誰にも話さなかった。


俺の「勃起」は自由にON/OFFを切り替えられる。

友人たちは「エロいことを見たり聞いたり朝起きた時に勝手に勃起する」と言っていた。彼らと違い俺の勃起は俺の意思でコントロールできる。


それを知ったとき、俺の「勃起」は他の人とは違う特別な能力だとわかった。

だから秘密にしておくことにしたのだ。


そしてやがて俺は「勃起」と共に自分の中にみなぎる力の存在に気が付いた。

それは「勃起」しているときに限り発揮される。

「勃起」の力を使えば、俺は超人的なパワーを発揮することが出来た。

いくら走っても疲れることが無ければ、ある時は鋼鉄の塊を拳で砕き、またある時は車を持ち上げることができた。


そんな俺の生活はこれまでの通りだ。

俺はやりたい事をやる。誰の指図も受けるつもりはない。


俺の名はボッキマン。

誰よりも強く、誰よりも自由な男。


だがそんな俺の元に寄ってくるのは危ない連中ばかり。

今のところは「勃起」だけが相棒だ。

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