第6話【朗報】ボッキマン、チンピラを後悔させていた その①

俺の名はボッキマン。

勃起により無敵の力を得た男。


当然だがこの無敵の力に誰もがついてこられるわけではない。

むろん俺の服も例外ではない。


俺は買ったばかりのパーカーを滅茶苦茶にしてしまったのだ。

ここ最近は特にひどい。


だがそんな事はいい。

問題はこの街にも俺のような不思議な力を持つ連中がいることだ。


俺はいつものようにドローンに付きまとわれながらランニングをしていた。

ふと思いついた俺は、走りながらドローンのカメラに向かって手を振ってみたがドローンは何も反応せず、相変わらず一定の距離を保ちつつ飛行を続けている。

その時、視界の端に何か動くものをとらえた。


俺は反射的にその方向に目を向けると、

こちらに向かって走ってくる人影が確認できた。

その数、二体。


そいつらは一人は手に拳銃のようなものを持っており、

まっすぐ俺の方へ向かってくる。


「なんだあいつら……」

俺は思わず呟いていた。何だかわからないがどう見ても友好的な相手ではなさそうだ。俺は腕を振り、一気に走る速度を上げる。あっという間にドローンが置き去りにされ、二人との距離が開いていく。


だが奴らも負けじと加速し、徐々に差が縮んでいく。

なかなかやるな……だが俺には追い付けない。


「待て!勃起の男!止まれ!」

背後から声が聞こえるが、もちろん待つわけがない。このまま走っていればいずれ諦めるだろう。

だがそう思った瞬間、たまたま前方を通りがかったドローンがいきなり爆発した。


もちろん俺ではない。今回のこれに関しては無実だ。

これは間違いなくあいつらがやったんだ。俺は足を止めて振り返る。


「お前らランニングの邪魔するなよ!」


そこには二人の男がいた。

一人は肩幅が広く大柄、黒地に無数のドクロがプリントされた派手なシャツを着ている。指輪、ピアス、ネックレスを身にまとい、髪型はオールバック。

極めつけに顔には黒いカラスマスクと、なんとも恥ずかしいファッションセンスだ。


もう一人はライダースーツに身を包んだ細身の男だった。

手には銃のような物を持ち、青白いグラデーションメッシュがかかった髪を伸ばしている。顔立ちは端正で女性受けは良さそうに見えるが、どこか不安と苛立ちの混じった表情をしている。


ライダースーツの男は銃のようなものを構えながら俺に告げる。


「……俺たちは糾業会(きゅうごうかい)だ」


きゅうごうかい?町内会みたいなものか?

「そうなんだ。お疲れ様、じゃこれで」

俺は再び走り出そうと後ろを振り向くと、そこにはいくつもの火の玉が浮かんでいた。それはまるでゲームに出てくる魔法のようでとても現実とは思えない光景だった。


そして次の瞬間、それらは一斉に熱線を放ち周囲のドローンを撃ち落とした。

ドローンは一瞬にして燃え上がり、煙を噴き上げながらゴトゴトと落ちていく。

俺は呆然としながら炎に包まれたドローンを眺めていた。


こいつらもしかして能力者なのか……。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おい、何無視してんだよ」

大柄な男がドスの効いた声で話しかけてくる。


「……お前らは魔法使いか何かなのか」

「はあ?」

大柄な男は聞こえなかったかのようにわざとらしく首を傾げた。


「おい、チンポコ野郎が恐怖のあまりおかしくなったようだぞ。

 さっさと止めを刺してやれ」

するとライダースーツの男が驚いたように大柄な男の方を向く。


「ちょっと待て、殺すつもりだったのか?理由を教えてくれ」

大柄な男は舌打ちをすると同時に、ライダースーツの男の頭を殴りつけた。

殴られた衝撃で髪が大きく揺れる。


「ぐずぐずうるせぇんだよ!弟を連れて行かれてぇのか!」

「……わかった」

ライダースーツの男は俺に向き直ると銃をこちらに向けた。

俺は期待を込めて銃口を見る。

正直に言って、俺はあの不思議な力を見て少しだけ感動していた。

こいつは次に何をするつもりなんだ?


俺は戦う前にライダースーツの男に向かって少し話しかけてみることにした。

「お前、ドローンを壊すだなんてめちゃくちゃ悪い奴だな」

「邪魔だったんだよ」

ライダースーツの男は銃を構えたまま表情を変えずに呟く。


「それと……お前じゃない。俺はイグナイトだ」

イグナイトと名乗った男の手の中の、小さな引き金がゆっくりと引かれる。

同時に空気が爆ぜる音が響き、

周囲の火の玉から一斉に俺に向かって熱線を放たれる。


「ぅうおっ!」

間一髪で避けたが、熱線は俺の足元のコンクリをドロドロに溶かしていた。

あんなの食らったらひとたまりもないだろう。

もちろん俺(ボッキマン)ではなく、俺のパーカーが、だが。


「アージスのパーカーが焼けるだろ!」

俺はパーカーを死守すべく、素早い動きで熱線を回避する。

「お前な。アージスってただの安モンだろうが」

大柄な男が横から嫌味を言う。

大柄な男はバカみたいにごちゃごちゃとアクセサリを付けているだけあって服には詳しいようだ。


俺は思わずダサい大柄の男に反論する。

「このパーカーはなぁ、縫製がいいんだよ。それにデザインがシンプルで使いやすいんだ。お前こそ何だよそのダサいドクロのシャツは」

「フゥッ……!」

大柄な男は俺の言葉に対し、小馬鹿にしたような笑みを浮かべたが少し動揺しているようだ。どうやらちょっとは自覚があるらしい。


奴は俺に向かって大声で叫ぶ。

「シンプルがいいならそのチンポコに紙でも巻きつけとけやコラぁッ!」

俺たちが罵り合っている間、ライダースーツの男は攻撃の手を止めて大柄な男の様子をじっと見つめている。


それに気が付いた大柄な男はイラついた様子でライダースーツの男を怒鳴りつけた。

「イグナイト!テメェ、なに呑気に構えてやがんだ!?」

「いや、あんたが話してるから攻撃しない方がいいと思って」

「んなわけねぇだろ!ボーッとすんなコラ!」


だがライダースーツの男は全く動じることなく再び銃を構える。

そして再び火の玉から熱線が発射された。


またそれか……今度は俺の魔法も見せてやろう。

回避と同時に体を捩じり拳を繰り出すと、誕生日ケーキのロウソクの火のように風圧だけで火の玉が掻き消える。


気分は魔法使いボッキマン生誕祭だ。

「なっ……?!」

ライダースーツの男はあの火の玉を使った攻撃に相当の自信があったようで、

風圧だけで火の玉が消えたことに驚いたように声を上げる。


「火の玉がすごいのは分かったけど他にはないのか?ないならもう俺は帰るぞ」

「……あるに決まってるだろうが!」

そう言うとライダースーツの男、イグナイトは再び銃を構える。

攻撃の意志は残っているようだ。


彼はぐるぐると回転するたくさんの火の玉を出現させ俺の周囲を取り囲み、ぐるぐると回転させた。なんだか無駄な動きにしか見えないが彼にとっては意味があることなのかもしれない。


そして火の玉は一気に加速し俺に向かって襲いかかってきた。

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