第2話【悲報】ボッキマン、市民の敵だった その②
野次馬たちは皆、好奇や侮蔑の表情を受かべながら俺の勃起の運命に注目している。
彼らにとって俺のような変態の身にこれから起きるであろう惨劇など、ただの娯楽でしかないのだろう。
「ここは危険です!誘導に従い、速やかに全員避難を開始してください!」
「目標発見!これより制圧します」
「これは命令です、避難指示に従わない場合、拘束される可能性があります!」
「おい!そこの男!動くな!両手を上げて投降しろ!」
「聞こえているのか!お前は包囲されている!無駄な抵抗をやめろ!」
「ええぃ!避難しろっつっとるのが聞こえんか貴様らぁ!」
そんなフェイルセーフたちのお決まりの言葉を聞いている内に飽きてきた俺はそろそろ立ち去ろうとを考えていた。
しかしそんな思考を遮るかのように突然大声があがった。
「チンコマンはロボットよりも強い!」
それは女の声だった。
そしてそれは周囲の喧騒を飛び越えて、人々の脳に直接届くような不思議な張りのある大きな声だった。
女の声が響いた瞬間、
まるで空気が入れ替わったかのように辺りがざわつき始める。
「めちゃくちゃうるせぇな……」
「なんだよあいつ……」
「頭おかしいんじゃねーの……」
フェイルセーフたちも戸惑い、動揺していたがすぐに気を取り直し、
周囲の野次馬たちにまた再び避難を呼びかけるように指示をした。
するとまた同じように女が叫ぶ。
「チンコマン!チンコマン!」
「静かにしなさい!ここは危険だ、避難しなさい!」
「チンコマン!チンコマン!」
「下がれと言っているだろう!危険なのがわからないのか!」
フェイルセーフの一人が女の肩に手をかけ抑えようとした時、
俺はその女の顔をはっきり見た。
髪を振り乱し、目を真っ赤に腫らした中年の女だった。
女は額に大きな汗を浮かべ、上半身は赤くなっている。
まるで酒を飲んだか、風呂上りかのようだ。
女は俺と目が合うとニッコリと笑みを浮かべた。
「チンコマン!ロボットをやっつけて!」
「警告に従わない場合拘束する。早くこの場から立ち去りなさい!」
「チンコマン!チンコマン!チンコマン!
チンコマン!チンコマン!チンコマン!チンコマン!」
「いい加減にしなさ……」
パンッ……
後日、野次馬たちはこう語るだろう。
中年女の目の前に男が突然現れたかと思うとフェイルセーフの巨体が宙を待っていた……と。
女が叫ぶ。
「チンコマン!」
ボッキマンだ。
俺はフェイルセーフに向かって走り出す。
フェイルセーフは慌てて暴徒鎮圧用の銃を俺に向ける。
「撃て!!もう警告は不要だ!!!」
銃で撃たれたことはない。
おそらく撃たれても平気だとは思うが、どっちにしろそんなことを試そうとは思わない。俺は足に力を込めながら体を傾け高速で移動方向を変える。
フェイルセーフたちは俺の動きをまったく捉えることが出来ず、弾丸は見当外れの場所を打ち抜いた。俺はその隙に一気に距離を詰めると、一人に蹴りを入れ、もう一人は拳を振り抜いた。
一人はヘッドロックのように頭を抱えて他のフェイルセーフ達に投げつけてやる。
今の俺はさながら暴力の嵐だ。
そしてその中心は勃起している。
俺が足で地面を踏みつければアスファルトに亀裂が入り、轟音が響き、放射状に激しく土埃が舞う。
辺りはまるで地震のように揺れ動く。
「きゃぁあぁあっ!!」
「ぉおおっっ!??」
フェイルセーフも野次馬たちももはや立つことすら出来ず、次々と地面に倒れていく。
倒れたフェイルセーフを体を持ち上げ、手に力を込めるとEXO(エグゾ)スーツのフレームがぐにゃりと曲がる。
俺は連中の体をから引き剥がしたそれを地面に叩きつけ、さらに踏みつけると、EXO(エグゾ)スーツは完全に破壊された。
俺は破壊したEXO(エグゾ)スーツを無造作に投げ捨てると、 ドローン目掛けて回し蹴りを放った。
その風圧だけでドローンは宙を舞い、壁に激突する。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
暴力の嵐が収まった時、辺りには恐怖だけが残っていた。
俺の周りで腰を抜かして動けなくなっている者、
我先に逃げ出そうとする者、気絶してしまったもの、骨でも折れたのか呻き声を上げてうずくまる者。
俺の攻撃を受けたEXO(エグゾ)スーツはどれも装甲が割れ、フレームがねじ曲がり、あるいは折れていた。
しかし、 よろよろと俺の前に立ち上がり、俺の股間を見つめている女がいた。
先ほどの中年女だ。
「チンコマン……」
中年の女は俺の姿を見て搾りだすように呟いた。
それだけでも不思議と頭に響くような印象に残る声だった。
俺は女の方へ振り返り、そして言った。
「ボッキマンだ」
ボッキマンとは俺のこと、この力は勃起の力だ。
「チンコマン!」
「だからボッキマンだって」
「なんでもいいからロボットをやっつけてちょうだい!」
「……なんだよロボットって。
フェイルセーフのことを言っているならこいつらは人間だぞ」
「いいからロボットをやっつけてちょうだい!」
「……わかったよ」
ロボットとやらがこの女に何をしたのか知らないが、機械を壊したいだなんてどうせろくでもない奴だ。
この街の機械はみんなの味方。
俺はみんなの敵。
俺の名はボッキマン。
無敵の力を持つ男。
だからと言って俺に対し、何をやってもいいってことではないんだからな。
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