ボッキマン~勃起中になんか無敵状態になった~
でぃくし
第1話【悲報】ボッキマン、市民の敵だった その①
俺はドローンの飛び交う街の中を軽やかに駆けていた。
だが俺は道路の上を走っているわけではない。
俺が走っている場所は、ビルの壁面だ。
90度の壁面を蹴り、ビルからビルへと猛スピードで駆け回る。
眼下では物々しい装備に身を包んだ治安部隊が大声で叫んでいる。
だが俺は構わず走り続ける。
そして次のビルに着地する瞬間――俺は跳んだ。
空高く舞い上がり、一瞬にして視界に入る全ての人間の姿が小さくなる。
そしてそのまま俺は街の闇に溶け込むように姿を消した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺の名はボッキマン。
無敵の力を持つ男。
ひとたび勃起すれば思うがままに無敵の力をふるう男。
ただしその評判はあまり芳しいものではない。
なにしろ別にいい事をしているわけではないからな。
ここで少しだけ俺に対する一般人の評価を紹介しよう。
「あの勃起しながら走ってる変態は何がしたいんだ?」
「昨日ビル走ってた奴って忍者みたいだったよな」
「警備用ドローンって全然役に立たねえじゃんw」
「チンコマンは何がやりたいの?w」
「そんなに走りたいならスポーツ選手にでもなれ!
他人と勝負するのが怖いんだろ!」
「早く逮捕しろ!!!!怒マーク」
「オチンコ様ビンビンで素敵よね!あたしのビルも登って欲しいわ!」
「教育によくないですよ!
ちんちん勃起させながらビルの間を飛び回ったり、
ドローンを蹴っとばして破壊するような人は!」
と、まぁこんな感じで俺はあちこちで好き勝手なことを言われている。
チンコマンだのおちんぽくんだの酷いあだ名ばかり付けられているのだ。
だが俺は自身のことをこう呼んでいる。
『ボッキマン』と。
連中とあまり変わらないネーミングセンスだなんて言わないでくれ。
これには理由があるんだからな。
なぜ『ボッキ』かと言うと「勃起」しているからだ。
それも常に。
……というと嘘になるな。
正確には、心の中で「勃起する」とか「勃起してやる」とか、
あるいは単に「勃起」と思い浮かべれば俺は勃起する。
そして無敵の力を手に入れられる。
そして『ボッキマン』でいる時、俺は無敵の存在になることができるのだ。
とは言え俺はヒーローなどではない。
特に人助けとか、いいことをしているわけではない。
これからもするつもりはない。
ただこの力で好き勝手にしたいだけだ。
俺は自由なんだ。
だから今日も街で股間にテントを張っているのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ドローンはこの都市では最もポピュラーな警備システムの一つだ。
導入当初は混乱があったものの、今ではすっかり街の風景として溶け込んでいる。
そんな風景の中に違和感があるとすれば、それはドローンではなく俺、ボッキマンの存在だろう。
ドローンの用途は主に2つあり、1つは犯罪の抑止力として街中の監視に使われている。
もう1つの役割は人探しである。
これは主に行方不明者や犯罪者などの捜索に使われる。
つまり、俺みたいな人間を探すために使われることが多い。
そして今まさに、そのドローンに発見されてしまったところだった。
「おはようございます。今日もいい天気ですね。」
ドローンは俺の足止めをしようと会話を試みる。
「ああ、そうだな」
「何か私に手伝えることはありませんか?」
「金を貸してくれ」
「3分以内に身分証を提示してください。
確認が出来なかった場合、あなたは拘束されます。
提示できない何か特別な事情がある場合は……」
1000円くらい貸してくれたってよさそうなもんだがドローンは自身が対処できない事案に遭遇した場合は最寄りの基地に連絡し指示を仰ぐことになっている。
そうしてやってくるのがEXO(エグゾ)スーツと呼ばれる中軽量型のパワードスーツを着た男達だ。
彼らは治安部隊であり、犯罪者の確保、鎮圧、そして逮捕を担当するエキスパートたちだ。
彼らには市民を守る正義感があり、市民の味方でもある。
ただし、それはこの俺(ボッキマン)の敵であることを意味している。
彼らはドローンからの連絡を受けると垂直離着陸能力を持つ輸送機を使って、
5分以内に都市のあらゆる場所へと駆けつけることができる。
「こちらE地区76エリア担当班、ドローンより通報のあった現場に到着」
「現在当該エリアには一般市民が多数おり混乱が予想される。早急に対処する」
E地区76エリアとは今、俺がいるエリアの名前だろう。
俺のような犯罪者を捕まえるために作られたその部隊は『フェイルセーフ』と呼ばれている。
彼らはEXO(エグゾ)スーツを着ていて、顔はフルフェイスマスクで覆われているため表情が見えない。
そのため何を考えているかはわからない。
案外中身はロボットなのかもしれない。まあそんなことはないかと思うが。
とにかく、連中がここにやって来たの目的はただ一つ、
俺を捕まえることだ。
だが俺は捕まる気は無い。俺はやりたいことをやるだけだ。
何ともやり過ぎ感のある装備に包まれた大男たちがわらわらと俺の周りに集まってくるが野次馬たちは逃げる気がないようだ。
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