6月2日 福岡、天神、パンケーキ

 先日福岡に行った。本当はもう少し早く更新するつもりだったが、すっかり忘れていた。忘れっぽく怠惰な私を許して欲しい。日記の更新はまた滞ると思われる。ちなみに今日自体はめちゃくちゃ雨が降っており、名古屋駅がたいへんな混雑になっているようだ。


 新幹線に三時間か四時間ほど運ばれて辿り着いた博多の駅は、どこを向いても人がいた。他人ばかりで億劫だった。私は人混みが好きではない。だから配偶者を連れてきた。

 長身の男を壁にしながら駅を歩いた。お前の目的地どこやっけ。ざわざわしている駅の中でも、聞き慣れた声は何とか拾える。天神。タワレコ。サカモトデイズ展見るねん。そのためだけにやってきた。私は骨の髄までオタクである。

 サカモトデイズはジャンプで連載中のたいへん面白い漫画だ。殺し屋がたくさん出てきて賑わっている。気に入ったキャラクターもたくさんいる。印税、めっちゃぶっこむねん。新幹線の中で何度も旦那にそう言った。

 天神は博多と同じくらい賑わっていた。タワーレコードのあるパルコは天神駅に直結しており、案内板を見ながらふらふら歩いたところで辿り着いた。展示はもう、最高であった。わざわざ書き連ねるひつようもない素晴らしさだ。鈴木裕斗先生はとにかく映画のような映すための構図が巧みで……いやもう本当に、言葉を尽くしても伝わらない。サカモトデイズを読めばわかる。

 グッズを買い込んだ。重すぎてよろけた。予定よりも早かったがホテルに引っ込み、私はグッズをいそいそと開封していき、至福の時を過ごした。


 夜はホテル近くの居酒屋に入った。酒を飲み、モツが美味いと聞いたのでもりもりと食し、出たあとには見掛けたスーパーで朝ご飯と酒を買い込みまたホテルに戻った。

 最近、ネットに載せていた小説が書籍になった。普段小説をまったく読まない旦那だが、読むと言うので持ってきた。ホテルでチューハイの缶を開けながら自分の本を手渡した。紙を捲る姿を尻目に煙草を咥えて火をつけて、煙い、と換気扇を探すが見当たらなかった。仕方ないので窓を開けた。案外時間が経っていて、深夜に入り込む時間だったが外は中々騒がしかった。若者が大声で何かを叫んでいる。でもそれは喧嘩ではなく、仲間内で楽しんでいる雰囲気が伝わった。笑い声が夜の中に溶け込まない。うるさいのだが、嫌いじゃなかった。翌日の記憶が飛ぶくらい呑んだ時、記憶はないのに万能感だけは覚えているものだ。

 書籍は面白かったらしい。私は酒を飲み過ぎて眠かった。翌朝出立したあとも、気だるさがどうにもついてきた。

 朝日を浴びつつ、天神から博多駅までのんびり歩いた。栄えた都市部であるために、朝だろうがすれ違う人間の数が多い。買い過ぎたサカモトデイズのグッズが中々重かった。入り組んだ繁華街を抜けたあと、太い血管のような大通りに差し掛かる。

 通りに沿って進んでいくと川にぶつかった。とはいえ橋がかかっているので、難なく上を横切れる。橋の上は建物と太陽の加減でちょうど影になる部分があった。立ち止まり、川を覗いた。堤防の上には地続きのように家屋が建っており、窓を開けると真下が川、という風情で中々面白い。その川は鈍色に澱んでいるが、都市部の河川はこのくらいのものだと思う。吸い込むと泥臭かった。この川はどこの海に流れ出るのだろう。

 旦那にせっつかれたので川からは離れたが、影になった薄暗さはその後歩いていても何度か思い出した。朝でも昼でも夕方でも、あそこはじっとり湿っている、ような気がする。

 影は好きだ。涼しいし、落ち着くし、眩しいと現実が嫌になる。私はああいう泥だらけのところから生まれる、生活の翳りに愛を感じる。理由は知らない。石を退けた下にいるダンゴムシを可愛いと言うようなものだろう。


 博多を歩き回り、かなり疲れた。夕方前には新幹線に乗り込んで、夜には愛知の我が家に帰宅した。そのあと、付近の安価なファミレスに行った。親子連れが多く、夜の天神など目ではないほど騒がしかった。動物園! と思わず言ったが、動物園のほうが静かな気がした。

 安価な雑炊を啜ったあとに、そういえばと思い出し、パンケーキを注文した。卵の味がした。私は卵が好きじゃなかった。パンケーキとは結局なんなのか。とりあえず、アイスなどが乗っているホットケーキのようなものだとは理解した。

 パンケーキの上に乗っているアイスを突きながら、疲れたな、と呟いた。旦那は既に眠そうだった。パンケーキを半分ずつに分けながら、サカモトデイズの話をした。福岡で見たガンダムの話もした。新幹線から私の故郷である滋賀県が見えた話もした。旅の総集編だった。

 楽しかったな、でも歩きすぎたな。そう締め括って、パンケーキの皿は空になる。


 ごちそうさまでした。

 また会いましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る