第30話 最終回

もしかしたら人生ではじめてやる気が持てる職業に出会ったのかもしれないのに、自分が本格的に参入した時期は、Googleが歴史的なバージョンアップによって、それまでとははっきりと進化した機械翻訳をネットに公開した時期のほんの少し前だった。でも、仕事として翻訳に手を染める人は、Google翻訳を仕事や趣味の一貫で使用する人のごく一部だろうし、その超少数派が泣こうと、失業しようと、悲鳴を上げようと、知ったこっちゃなく技術は進歩していく。その濁流にちょうど飲み込まれたところだった。

そして私という人間が、一部をリアルで知っているとはいえ、ネットの虚像しか知らないカンさんのような人間に、どのような醜い感情を抱こうとも、それも大したことではなかった。彼女は、田舎暮らしを捨てて、東京に出て行った。更新されたSNSでそのことを知った。フリーランスの良いところは、引っ越してもネットが繋がっていれば問題なく仕事を継続できるところだ。でも、地方都市にいるよりは、首都圏にいるほうがチャンスは大きい。自分でないとできない翻訳を追求したいと思うのならば。

そして、翻訳学校の課題に平気でGoogle翻訳を下訳に使う人間は、相応の未来が待っているのだ。【終】

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偽アスペルガー症候群 @9zth7DcB

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