第29話

翻訳者が何より大事にしなければならないものは「品質」だとくどいほど言われたし、いろんなプロがネットに書いている。でも、決して安くない受講料を自腹で払って参加している(はず)の翻訳学校の課題であっても、機械翻訳を下訳に使用する人がかなり多いことは、この先この業界全体が機械化されていくだろうという予想があながち杞憂ではないことを痛切に感じさせた。

もっとも経理事務のように、職場の誰もがPCを使用するようになって、機械化やAI化が進み、作業の大部分がディスプレイ上で行われるようになったにも関わらず、相変わらず経理担当者の求人はあるし、経理社員がいなくてもいいということにはならないという現実もあった。機械化によって社内のお金の流れが透明化して、不正会計によって逮捕される人がゼロになった…という事実もなかった。

最も、翻訳学校に通いながら、ぼちぼち翻訳会社から依頼される実務をこなしていても、翻訳という仕事が今後どういう風に変化するのかはまったくわからなかった。二極化して、いわゆる文芸翻訳のような、完全に人が行う翻訳と、PE(ポストエディト)という機械の修正を行う人に分かれるのかもしれなかった。

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