第25話

翻訳学校で席を並べている生徒たちの背景は様々だった。カンさんのように一番若い方なのにとっくに翻訳会社のトライアル試験に合格して、日本国内の大きな翻訳会社の登録翻訳者になって普段は忙しく働いている人もいれば、英語の教師であり、翻訳はメインで受けていないけれど勉強は続けている、自宅で生徒たちを教えているという人もいた。IT系のコンテンツ(社内書類)の翻訳だけではなく、字幕・映像翻訳を請け負っている人たちも数名いた。

「プロの翻訳者として自立自活できるのは、本当に少ない、この中の全員ということはないでしょう」

講師はそう言ったことがあった。プロになっていたカンさんはこの言葉を聞いてどう感じていただろう。SNSによると、先の土曜日にこの翻訳学校を運営する会社のイベントがあって、カンさんは特別に声をかけられて遊びに行ったそうだ。その時に、この講師に声をかけてお茶してきました~という書き込みがあった。

私の顔を見れば、教室内であっても「気持ち悪い」と平気で吐き捨てる講師が、カンさんにはそんな特別扱いをするんだなと、かなしいやら悔しいやら入り混じったわけのわからない落ち込みが襲ってきた。この講師は「いいひと」ではないのだ。

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