第12話

カンさんは私より10歳以上若く、私が入学するより以前からその翻訳学校に通っていて、担当の講師とも知り合いだった。カンさんは実名でSNSをやっていたし、その翻訳学校の広告に顔写真入りで載っていた。華のある人から広告にとりあげる方針なのだろう。SNSのアカウントもすぐにわかった。綺麗な顔の上にいつも完璧な化粧をして、服が大好きというコーデで決めていた。写真を見ていても、能力が高そうで、野心的で、クリエイティブな才能の何かが伝わってきた。

翻訳学校の講師は中年の男性で、実務翻訳者であり、どこかの大学の非常勤講師でもあったが、最初に会ったとき、私の顔を見て「気持ち悪い…」と小声でつぶやいた。私の顔はアトピー用のステロイドの塗りすぎで、光線によっては青銅色に見える場合もあったから、そういう感じの悪いことを言う人も多かった。でも、こういう翻訳学校みたいな場所に容姿至上主義者がいるという発見は、少なからず私を落胆させた。次の回から、私はICレコーダーを持参するようになった。

カンさんは、その容姿差別主義者の講師のお気に入りだった。力のある人に好かれていいなという気持ちは、その場にいた生徒全員が持っていたと思う。

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