第11話

尤も、行政的区分による障害者に変化したからといって、人生の何が変化したのか?よくわからない。障害者雇用枠がありますよと言われて、探して働いてみたけど、またしても人間関係が原因で職場から放り出された。

思うように働いたり、勉強したりできない二十代、三十代を非正規社員やアルバイトで生活した。正社員になろうとしても、体力的にフルタイム労働が難しいのだから、すぐに職場へ通えなくなってしまった。二十代、三十代…ほとんど友人もなく、さりとて他人がいなくて寂しいという感情もなく、ぼんやりとして過ごした。


最初にカンさんと出会った時、美術研究所時代に知り合った高校生を思い出した。十代だった私は、彼女たちの華やかさや個性的な頭のよさが逆に珍しかったのだが、カンさんには確かにそういうオーラがあった。きらきらオーラ。そんな日本語が安っぽく見えるくらいに。

でも、美術研究所時代に知り合った高校生たちは親が裕福だった。カンさんは、名前から想像がつくように、在日3世で家庭環境が悪かった。

40歳になってから、私は翻訳学校に通い始めた。カンさんもそこの生徒だったのだ。私が翻訳という仕事に目を付けたのは、家から出なくても済むのでは…という一縷の希望の光だった。

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