第10話

私は地元の地味大学の文学部をなんとか卒業したけど、もともと体力に欠ける虚弱である上に、コミュニケーション能力も低かった。コミュ力って、つまり他人に好かれる力だと思う。何をしてもしなくても、他人に好かれなかったし、どんな集団であっても私の居場所はなかった。スクールカースト最下位が私の定番席だった。

生まれつきアレルギーが強くアトピーがあった。十代の終わりごろから、皮膚科と並行して心療内科に通って、抗うつ剤や入眠剤を飲むようになった。抗うつ剤を飲むと、皮膚の炎症を抑えた。風呂に入るのに苦労していたから、薬が欠かせなくなった。アトピーは奇妙な病気だった。スイミングや長期の旅行でも改善した。

抗うつ剤は次第に強い薬でないと効かなくなって、メンタルクリニックへ行った。私は自分のことを気分障害であると信じ込んでいた。もらった診断書には「広汎性発達障害」と書いてあった。こんなはずではなかった。そんな病名知らない。

でもその日から、何かが変化した。それまで自分には無縁だと感じていた障害者の世界。しかし私はその異質な世界、ありきたりの日常の亀裂の向こうにある世界の住人になったのだ…と感じた。私はもうすぐ30歳になろうとしていた。

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