第9話
彼女は中高一貫私学を出て、東京のはずれの私立美大へ進学した。あの頃絵を描いていた複数の高校生が、私立美大に進学してから仮面浪人を続けて、藝大へそのほかのもっと実技が難しい美大に入学しなおしたことを知っていた。しかし、彼女は、東京のはずれの美大に入り、すぐに恋人ができて、楽しく学生生活を送っていた。
彼女は友人が多かった。年賀状の話をしていて、彼女が「あ~あ、今年も山ほど年賀状がくるんだろうな、返事を書くのが大変で…」とぼやいた。私はその言葉に嫉妬した。私は友人が少なかった。いや、本当は友人なんか1人もいないのかもしれないが、いることにしていたのかもしれない。だから、私は毎年50枚も100枚も年賀状を書いていたのかもしれない。でも元旦に受け取る年賀状は毎年がっかりするほど少なかった。私を友だちだと思ってくれていた子はほとんどいなかった。
彼女は私より1学年上だったが、東京へ進学する前は時々電話で会話していたし、映画を見に行ったこともある。でも会わなくなって、どんどん距離が空いていった。今の彼女がどこで何をしているか知らない。故郷には戻らず、東京で生きていく、東京都の美術教師の資格を取るという話をした記憶がある。
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