第7話

美術研究所で過ごす夢のようなきらきらした時間はあっという間に過ぎていった。その頃アルバイトをしていないから、画材費を親からもらうたびに冷や冷やした。母親は出し渋った。不登校気味だった上に、画材は本格的で高いものだったからだ。

高い画材の中でも、一番高く感じたのはカンバスだった。木枠に布を張って、その上に絵を描くのだが、ある日、アトリエで、よく話していた1学年上の女子高生がロールを切っていた。油絵のカンバスを貼るのに、ロールで買うという話をはじめて知った。ロールっていくらくらいするんですか?と訊くと、12万円だと言う。

「画材屋のセールの時に買ったからね。普段はもっと高いの」

その少女は言った。彼女の絵はいつも美術研究所で1位を取っていた。偏差値の高い私学の2年だったが、彼女は学力も1位だと聞いた。たまにこういう少女がいる。

「私も買ったほうがいいかな」と言うと、彼女は「じゃ画材屋のセールの時がきたら、教えてあげる」と言った。でも教えてくれたことはなかった。

私はその少女が1位を取るのはずるいと思ったことがあった。彼女の通う女子高は美術研究所にごく近かった。高校が終わったらすぐにやってきて、モチーフの周囲に場所だけ取っていた。

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