第8話:幼馴染

「――嘘だよ」

「え……」

「私たち何年幼馴染やってると思ってるの?」


 今度は私がたじろぐ番だった。


「私、知ってるんだから。琴音がどんな目で楓弥を見てきたか。そんな私を鼓舞するためだけの、表面を取り繕ったような嘘になんか騙されてあげない」


 確信に満ちた凛花の強い言葉と視線が、容赦なく私を突き刺す。


「嘘、じゃ……ない」

「もういいから」


 絞り出すように言った私の言葉を、凛花が拒絶する。

 そして「ずるいよ」と続ける。


「もっとずるくやればいいのに。私のことなんか気にしないでさ。そしたら琴音なら簡単に付き合えたはずなのに。そんなにカッコつけられたら、私だって素直に甘えられないよ。そういうのってとってもずるいと思う。ずるくなくて本当にずるい」


 凛花は悔しそうに唇を噛む。

 理解しづらい言葉だったけれど、伝えたいことは分かったような気がした。

 私はもう一度自分の中で咀嚼してから頷く。


「……そうだね。ごめん」

「ううん。私の方こそごめんね」


 私たちは顔を見合わせて笑った。

 そうだった。

 私が凛花の気持ちを分かっていたように、凛花だって私の気持ちを分からないはずがなかったんだ。


「それで――」

「ん?」

「琴音は楓弥にちゃんと告白したの? どうせ琴音のことだから、『付き合う?』とは言っても『好きです』とは言ってないんじゃない? それどころか否定してたりして」

「う……」

「あ、図星だった? ごめんね」


 絶対ちっとも悪いと思ってないトーンで、凛花が言う。

 もしかしたらさっき楓弥の家で嘘ついたこと、根に持ってるのかもしれない。

 どうやら執念深いようだし。


 けれど怪我の功名かな?

 おかげで今までで一番、凛花を近くに感じられている気がする。

 だからそんな幼馴染であり親友に、私も相談してみることにした。


「……どうすればいいと思う? やっぱり告白してみるべき?」

「そりゃそうでしょ。というか私を煽って告白させて、もし私が楓弥と付き合っちゃったら、琴音はこれからどうするつもりだったの?」

「私はそれでもかまわないと思ったから」


 二人がちゃんと素直になってくれるなら。


「……それが一〇〇パーセント掛け値なしの本音なところが、琴音のいいところであり、たちの悪いところだよね」

「なにそれ」


 はぁ、とため息を吐く凛花に、私は笑う。

 でも、うん。なんかすっきりした。


「わかった。私も楓弥に告白する。ちゃんと好きって伝えて、そしてフラれてくる」


 私の宣言に凛花は苦笑する。


「だからそう決まったわけじゃないんだって」


 決まってるんだってば。もう。

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