第6話:最終通告

「はい、ホットミルク」

「ありがとー」


 凛花からマグカップを受け取る。

 顔を近づけると、ふわりとほんのり甘い匂いが鼻孔を擽った。

 口を潤して飲みこむと、全身にじわりと暖かさが広がっていく。


「――で、話って?」


 凛花が胡乱な目を向けてきた。

 と思ったけれど、もしかすると違うのかもしれない。

 だって目の周りが赤く腫れぼったくなっていたから。

 泣いてたんだな、と、私は自分の考えの正しさへの確信を深めていく。


 だからまず、こう切り出した。


「ごめん、さっき言った『楓弥と一週間前から付き合ってる』って話、嘘なの」

「え……?」


 凛花が目をきょとんと見開いた。

 よくわからない、そんな表情だ。

 だが瞳の奥にどこか希望の光が宿ったようにも見える。


 それを確認し、私は続ける。


「けど、『せっかくだから私と付き合う?』とも言った」

「――っ、」


 途端に凛花の顔が引き攣る。

 ああ、本当、わかりやすいんだから。


「返事はもらえなかったけどね。でも断られたわけじゃないよ。今は返事待ち」

「そう、なんだ」


 何とも言えない微妙な表情をした凛花は俯く。

 そして顔をあげたときには、どこか能面のような無表情が張り付いていた。


「それでそんなことをわざわざ私に伝えに来た理由は、何?」

「凛花には伝えておかないと、と思って」

「なんで?」


 ぶっきらぼうな物言いで凛花は表情を硬くする。

 そんな態度だとむしろわかりやすいのになぁ。

 内心苦笑しつつ、表情には出さないように気を付けて、言い放つ。


「だって凛花、楓弥のこと好きでしょ?」


 ビクリと肩を震わせる凛花。

 そして何かを言おうと口を開いたが、その先を言わせないように畳み掛けた。


「私も楓弥のこと好きなの。だからこれは最終通告。これ以上嘘つき続けるようなら、本当に貰っちゃうから」

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