第2話:久しぶりの

「お、お邪魔しま~す……」


 恐る恐るといった様子でそろそろと家に入ってくる琴音の姿に、俺は笑った。


「何やってんだ。らしくねーな」

「う、うるさいな! 久しぶりだから緊張しても仕方ないでしょ!」


 琴音が最後に俺の家に来たのはいつだっただろうか。

 思い出そうとしてもあまり思い出せないくらい前だったような気がする。

 別に仲が悪くなったわけではないが、男女を意識するようになって、昔ほど近くにはいられなくなった。


「ま、それもそうか。とりあえず飲み物入れるけど、なんか希望ある?」


 リビングに入り、琴音をソファに座るように促してから問う。


「カルピス」

「即答かよ」

「楓弥の家と言えばカルピスは鉄板でしょ。それとも、もうない?」

「あるけど」

「やっぱあるんだ」


 愉快そうに琴音は笑う。

 小学校の頃はうちに集まったら母が必ずカルピスを出していた。

 よく覚えてたな。


「濃いめがいいな」

「注文が細かいな……っと。ほら」

「ありがと。――ん、美味しい」


 琴音は一口含んで、ほぅと息を吐いた。

 結構リラックスしてきたように見える。

 もう大丈夫そうだな。


「じゃあ、俺、そろそろ作るから」

「あ、私も手伝うよ」

「そうか? なら頼もうかな。俺はじゃがいも切るから、にんじん頼む」

「は~い」


 一旦落ち着いてしまえば、あとに残ったのはただ幼馴染二人。

 すぐに昔のペースを取り戻した俺たちは、分担しつつカレーを作っていく。


「楓弥、ピーラーある?」

「ちょっと待って。……ほら、これ」


 と引きだしから取り出したピーラーを琴音に渡す。

 そのとき、ふいに軽く手が触れた。


「ひぁっ!」

「――っと危ねぇ」


 瞬間、音速で手を引っ込めた琴音に驚き、ピーラーを落としそうになる。

 なんだこいつ。


「なんだよ琴音。ちゃんと持てよ」

「ご、ごめん。ちょっとびっくりしちゃって」


 言いつつ、今度は落とさないように琴音の手をがっちりと掴んで引き寄せ、しっかりと手の上に載せてやる。

 琴音はなぜか身体をガチガチに硬直させて顔を赤くしていた。


「ぁ……り、がと」

「……おう」


 微妙に気まずい空気。

 

「なんなの、その態度」

「と、突然楓弥が手握ってくるから……!」

「お前だっていつも肩組んできてんじゃん」

「自分でやるのはいいの!」


 まったく、と唇を尖らせる琴音が可笑しくて、「なんだそれ」と笑い飛ばし、俺たちは調理を再開した。

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