第3話:悪戯

「「いただきま~す」」


 二人手を合わせて合掌。

 多少のトラブルこそあったが、ちゃんと美味しい匂いを漂わせるカレーが出来上がった。

 琴音は一口食べ、感想を漏らす。


「うん、ふつーに美味しい」

「普通かよ」

「だって箱の裏に書いてある通りじゃん」

「そうだけど」


 言いつつ、俺も一口食べる。


「普通だな」

「でしょ?」


 ぷっと噴出して、俺たちは笑う。

 なんだかんだ、こうして誰かと家で食卓を囲むということ自体、久しぶりな気がする。

 いいな、こういうの。


「そうだ、写真撮っていい?」

「ん? いいけど、食べかけで――」


 いいのかよ、そう言おうと顔をあげたとき、パシャッというシャッター音が鳴り、琴音が俺にスマホを向けているのが見えた。


「っておい! 写真撮るって俺かよ!」


 驚きつつツッコむが、琴音は俺に一瞥もくれずそのまま操作している。

 数秒ほど経って「これでよし」とスマホを置いた。

 俺は怪訝な目を向けた。


「何したんだ?」


 まさかとは思うが、SNSにでも上げたんだろうか。

 と思っての質問だったが、琴音の返答は俺の予想の斜め上のものだった。


「凛花に送ったの」


 意図が理解できず、固まる。

 そんな俺を見て、琴音が「どしたー?」と訊いてきた。


「……なんで?」

「別に? 深い意味はないけど」

「あいつ俺のこと嫌ってんだから迷惑に思うだけだろ」

「それならそれでいいじゃん?」


 何か文句を言ってやろうと思ったが、いまいち適切な言葉が出てこない。


 誤解されたらどうすんだ! ……しないだろうなあ。

 むしろしてくれて嫉妬でもしてくれた方が嬉しいまである。


 じゃあ気にすることもないのか、とも思うが、なんかこう、もやもやとした気持ちが心の中を渦巻いて落ち着かない。


「――あ、もう既読ついてる」


 琴音がスマホにちらりと視線をやり、呟く。

 そしてカレーをすくって食べた。


「な、何か返ってきたか?」

「いや、何も?」

「そ、そうか」


 ほっとしたような残念なような。

 俺に対する罵詈雑言が返って来なかっただけ、よかったと思うべきなのかもしれない。


 複雑な心境を抱いたまま、俺も食事を再開しようとカレーをスプーンですくったそのとき――。

 ふいに玄関の方がバタバタと騒がしくなった。


 ガチャガチャとドアを開けようと押し引きする音が聞こえる。

 え? 何? 怖っ。

 と思っていたら、少し経ってガチャリと鍵を開錠する音が聞こえた。


 そのままバタバタと誰かがこちらに駆けてくる。

 俺は硬直したまま動けない。

 一方で琴音は涼しい顔のままカレーを食べていた。

 

 そしてドアがバァン! と大きな音を立てて開かれた。


「あ、あんたたち……ここでなにやってんのよ!」


 真っ赤な顔で息を切らして駆け込んできたのは凛花だった。

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