意味がわかると怖い話

アンチテーゼ

愛情

「彩、さぁステーキを切ってみるんだ」


彩と呼ばれる少女はナイフとフォークを手に取ると、それを切り分ける。


__ギギィッ!


ナイフが皿の上で不快な金属音を立てる。


「ダメじゃないか彩、僕の見本をみなさい」


「うん、祐介さん」


祐介と呼ばれる男は、まるで貴族かと見紛うような手つきで肉を切っていく。縦に軽く切れ目を入れてから、ナイフをステーキと平行な位置に持っていくと綺麗に切れるようだ。


「彩、明日は僕たちがあって3年の記念日だけど何かしてほしいことはあるかい?」


「じゃあデートがしたい!」


「今もデートしてるじゃないか」


「ここ家だもん。外に出たいよ」


「でも外は見つかっちゃうからダメだよ」


「この辺人気(ひとけ)ないし、人目につかないよ」


「万が一のことがあるだろ?」


すると祐介は立ち上がる。


「もう帰っちゃうの?まだ一緒にいたいよ」


「彩は寂しがり屋だな。それに帰ると言っても寝室に行くだけだ」


「分かった。じゃあね……。」



彩は部屋で1人になる。辺りを見渡す。


諦めと焦燥の狭間が反動のように揺れて、思わず涙が溢れる。


「お母さん、会いたいよお母さん…」


今日も足に付けられた金属の塊を呪いながら眠りに着く。

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