第12話俺とドッペルゲンガー
「あの馬鹿…」
リンクも心配そうにその状況を見守っていた。
トゥルスは演奏をやめ、愉快そうにその光景を嘲笑っていた。
「自分から喰われにいったか。面白い!ドッペルゲンガーの侵食に勝てるモノなんていない。…っははははは」
ルキトは近づこうとしても、反発合う波動に押されて、近づくこともできなかった。
「李弥!」
みんなの声は今の俺には聞こえなかった。
深い海に落ちていくように、耳が塞がれたようなボワンとしている。
身体が重い。
「このまま、俺がお前を生きてやるよ」
「ふざけるな、俺はお前に負けない」
自分の言葉とは裏腹に、ドッペルゲンガーのせいなのだろうか、昔の罵倒された言葉がうるさく頭の中で響いてくる。
『おい!何回言ったら分かるんだよ!お前のせいで、時間押してるんだぞ』
『主役でもないのに、こんな演技もできないのか?』
『結局あの子って、誰かに似てるだけだよねー』
『あの人より気軽に会える俳優』
『オーラがないよね』
うるさい、うるさい、うるさい!!
俺は、俺なりにこの仕事と向き合ってるんだ。
どんな言葉をかけられても、立ち向かってきたんだ。
俺は、俺は…
「強がるなよ。辛かったんだろ?俺が上手くお前になってやるから、安心しろよ」
ドッペルゲンガーの腕が背後から俺を抱きしめてくる。
すると、今度は俺の知らない俺の姿が映る。
「なんか、月谷くんってこんなに明るいなんて知らなかった」
「僕、ちょっと人見知りなので、でも、みんな優しいから今回はすぐ溶け込めそうです」
「可愛い、月谷くん。三人で写真撮ろ!」
ああ、あの時の写真の…
出演者の楽しそうな笑顔。
俺の力じゃ向けられていなかった。
「凄いな、階段から落ちたら別人みたいじゃないか!」
「李弥、今のよかったよ!」
ああ、監督と圭介の笑顔。
俺、あんま褒められたことないや。
ダメ出しもなくて、無だったのに…
俺は、無力なのか…
身体が重い、息が苦しい…
誰にも気づかれながら、俺はすり替わるのか…
目を閉じかけた瞬間、
「君は君じゃなきゃ意味がないんだよ」
ルキトの声が聞こえた。
初めてルキトを見たときのチェキを10枚撮ったあの時間。
そうだ、俺は、今の俺の成長を見守ってくれている人がいる。
ここで、苦労の知らない奴に負けてたまるか!!
「俺は俺なんだ!!」
精一杯声を張り上げた。
自分に言い聞かせるように、言霊を動かすように。
すると、重かったドッペルゲンガーの陰がだんだん軽くなってきた。
「俺は一人でいいんだ!」
その瞬間、無重力になったかのように、身体の力が抜けて、気を失った。
「李弥!」
ルキトは、倒れ込む俺を支えてくれた。
身体が軽い…
自分はどうなったんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます