第10話対峙

自分の不甲斐なさに、自己嫌悪に陥っていく。


そんな俺にドッペルゲンガーは肩に腕を回してくる。


「俺は、お前の理想の姿だ。お前が俺に敵うことなんてないんだよ。こう振る舞いたい、こんな演技がしたいって、思っていることを俺は全て表現できる」


そりゃ、そうだろうよ。

俺は、ただの高校生だった頃、ドラマや舞台に憧れて、今の事務所の養成所に卒業と同時に入って、才能が初めからありふれていた人たちとは違う。


同期なのに、同じ場所から始まったのに、背中が見えないほど、前に進んでしまった人をみて、後から入ってきたのに、すぐに主役を任せられた後輩もいた。


俺は、自分なりに勉強して、知識をつけて、やっとこの場所にたどり着いた普通の人間なんだ。


「俺は…」


「俺と一緒に理想の人間になればいいじゃないか」


そうか、誰もドッペルゲンガーに身体を預けたとしても、俺は存在していて、世間にも何も知られることなく、俺は人生をこいつと代わっても、気づいてもらえず、むしろ、感謝されるかも知れない。


演技がよくなった、話しやすくなった、自信に満ちた俺、輝かしくなるかも知れない。


徐々に、ドッペルゲンガーが俺を侵食していく感じが伝わってきた。


「いい子だ、李弥。俺と一緒になろう」


『君は君じゃないと意味がないから』


ふと、ルキトの顔と言葉が浮かんだ。


その瞬間、俺はドッペルゲンガーを突き飛ばした。


「くっそー。あとちょっとだったのに」


突き飛ばした拍子に、壁にぶつかったドッペルゲンガーは、うすら笑いを浮かべてそう言った。


「お前たちは、本当の人間になりすましてどうするつもりだ?」


「いい質問だね。けど、それを答えてる暇は無さそうだ」


その言葉に、顔を上げ振り返ると、

そこには


「ルキト、リンク…」


「僕の李弥に手を出すなんて、ドッペルゲンガーでも人間でも容赦しない!」


「いや、あんたの李弥じゃないから」


決めて登場した割には、リンクは呆れたようにルキトにツッコミを入れていた。


俺は呆然とした俺に、ルキトは近づき頬に触れた。


「よく、堪えたね。ここからは、僕たちに任せて」


ルキトは被っていた帽子を取り、どこから出てきたのかスティックを帽子に2回叩いてみせた。


「さあ、楽しいショーの始まりだ。ブラッディーハットのショータイム」


すると、中からホワイトタイガーのような野獣が現れ、ドッペルゲンガーへ襲い掛かる。


「トラ!?」


「ルキトの異能、帽子の中から戦闘に相応しいモノが勝手に出てくるブラッディーハットだよ」


リンクは冷静に俺に解説しながら、自分はパソコンのようなものを触りながらあぐらをかいていた。


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