第8話製作所『ガダウト』

「なにー?ドルガーがまた動き出したの?」


外を眺める松崎に、人懐っこく、どこか色香も感じられる笑顔の少年が声をかけた。


「トゥルスか」


トゥルスは望月怜というバイオリニストだ。

クラシック音楽も弾けるが、自由にストリート演奏者として有名になった。


ルックスも18歳にして大人びていて、絶対音感があるため、集まってきた人からリクエストをもらえば応えて弾いてみせるそんなパフォーマーだ。


「アルフレッドも大変だね。せっかくいいモノ作ったのに」


松崎健太郎こと、アルフレッド。

ある時はイベントの司会など、裏方の仕事をメインでこなしていた。


「月谷李弥、結構僕好きだよ。純粋そうで彼が普通の人間なのが惜しいくらい」


「トゥルス、邪魔されるのはこちらとしてもよろしくない。誰かいないか?」


「雑な頼み方だね。まあ、今日の夜パフォーマンスしてもいいけどね」


「そうしてくれるとありがたい。ガダウトの邪魔ものは排除しないとな」


怪しい笑みを浮かべる松崎に、怜は「はいはい」と言いながら、自身のSNSでストリートを行う日時を公表した。


【ガダウト】

ドッペルゲンガー製作所。

主に特殊能力を持つ者が集められた集団のアジト。普段は普通に働いている人が多い。

普通の仕事をして、普通の人に紛れて、フェブルクールを見つけて相手が気づかないままドッペルゲンガーを創り出している。




********


「ガダウト?」


場所が俺のうちに変わり、とりあえず、ルキトとリンクにお茶を出した。


ルキトは俺の家を知れたことに始めは興奮していたが、冷静なリンクが一喝し、今は改めてドッペルゲンガーの出所の話になった。


「そう、君みたいな普通の人には無縁でいて欲しかった。この世にはね、特殊能力を授かってしまう人がいるんだよ。それも、普通の顔して、普通の生活をしている。周りにいる人が、特殊能力者ってことが、僕たちの周りでは多くてね」


「じゃあ、2人も?」


「まあね」


ルキトは自信満々で言う。


そういう2人もまた羨ましいと思ってしまい、俺は自嘲しながら目を背けた。


「通りで…オーラがあるなって思った。なんで、俺って、こんなに普通なんだろう。いつもさ、俺くらいのやついっぱいいるから、この世界で残ることに必死でさ、やっと名前が売り出せたところなのに…」


なのに、自分の実力以上の力を持って、勝手に仕事を、こなしてしまうドッペルゲンガーに俺は嫉妬していた。


「李弥は特別だよ。俺は李弥のファンだぞ!努力していた過程も知ってる。だから、君を守るよ!君は君じゃなきゃ意味ないから」


ルキトは笑顔でそう言った。

その、言葉が本当に嬉しくて、素直に心に沁みてきた。

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