第6話弱き心
「さーて、どうやって正体を表してもらおうかな…」
「あ、あの、ルキトさんたち…」
そう言いかけたとき、ルキトは俺の前で人差し指を立てた。
「さん付けはもうやめよう。ルキトと呼んで、僕も君のことは李弥と呼ぶから」
「いや、それ、あんたが呼びたいだけでは…」
すかさず、リンクのツッコミがはいるが、ルキトは気にしない。
俺も、いちいち反応することに疲れていたので、その要件を受け入れることにした。
「じゃあ、ルキトはドッペルゲンガーと会ったことあるの?その、リンクさんも」
「俺も呼び捨てでいいよ、きっと、俺の方が年下だろうから」
「ありがとう」
「じゃあ、打ち解けたところで、ドッペルゲンガーのことを李弥に話そう」
今度は真面目な声のトーンで、ルキトが話し始めた。
「最近ね、ドッペルゲンガーと会う人が増えているんだよ。そして、言い伝えを君は知ってる?」
「言い伝え?」
「同じ顔の人と3回あったら死ぬ」
その言葉を聞いて、悪寒がした。
言い伝えを知っていたが、滅多に出る話題でもないから気にしたことがなかった。
しかし、今、自分のドッペルゲンガーがいるとわかったこの世の中で、俺は死にちかづいてるってことなのだろうか?
「3回目に会う時は、ドッペルゲンガーから近づいてきて、本人を乗っ取る時。だから、死ぬとはちょっと違うんだよね。周りから見たら、その人は存在していきているから」
「じゃあ、俺も…」
自分より言葉の使い方とか、写真の撮り方の上手いドッペルゲンガーが、自分を乗っ取ったところで、もしかしたら、事務所は喜ぶかもしれない。
本当の自分じゃないと気づかれず、俺の存在がなくなってしまうのか。
「フェブルクール」
ルキトは突然呪文のような言葉を発した。
俺が顔をあげて、ルキトをみると、真剣な表情をしていた。
「弱き心が、ドッペルゲンガーを生み出した理由だ。奴らは、君のコンプレックスを書き出して、それをエサにドッペルゲンガーを作り上げたんだ。覚えているだろ?あのイベントで君に最後与えられた質問を」
「あれは、自分が思う理想の…」
そこまでいって、ハッとした。
あの時、俺は自信のない自分をみんなの前で曝け出していた。もっと向上したい。そう思っていたが、ある意味、それは今の自分にあるコンプレックスでもあった。
それがフェブルクールということか。
「それを上手く引き出した奴は、異能力でドッペルゲンガーを作り出したということだよ。そして、李弥みたいに有名人で輝かしい人ほど、奴らの望むフェブルクールは絶大な力となる。ターゲットをしっかり見極めてる証拠だね」
有名人で輝かしいという描写には照れるものがあった。
と、同時に今置かれている自分の立場の危うさを実感した。
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