第5話探偵事務所「ドルガー」

俺は、目があったその人に歩み寄ると、ルキトとは違ったごく一見普通の青年。


メガネをかけて銀髪のベレー帽がよく似合う彼は、近づく俺に、表情を少し怖ばせながら向き合ってくれた。


「あの、ここに朝雪ルキトさんて…」


「キャー!月谷李弥がここにいるー!」


俺の言葉が聞こえなくなるほど、ルキトは絶叫して、外へ出てきた。


さっき、連れ戻されてたのに、行動が早い。


「こんにちは」


俺は苦笑いしながら、ルキトと向き合った。


「ああ、通りで見たことある顔だと思った。事務所にすんごく、あなたの写真集からポスター貼られてるから」


呆れたように青年は言った。

まあ、10冊の写真集の置き場所は流石に困るよな。


「それで、李弥くんがどうして僕を?」


キラキラした瞳で見てくるルキトに、気まずそうに俺は名刺を見せた。


「ドッペルゲンガー…について、どう思うのかなって…」


その言葉を発した瞬間、青年もルキトも表情が一瞬険しくなった。


しかし、すぐに表情を緩ませ、優しい笑顔を作ってルキトは事務所へと誘った。


「なるほど、事務所へどうぞ。リンク、お出かけはまたあとだ」


ベレー帽の青年はリンクと言うらしい。

リンクは無言で後ろをついてきた。


事務所は洋風な内装になっていた。

小鳥と森を思わせるステンドグラスに、赤い絨毯と大きくはないが、あじのあるシャンデリア。


そして、大きな深緑のソファーと古い木造の立派なテーブルが応接間に合った。


「お茶を、お待ちしよう」


そういって、もう一つのドアを開けた時に、隣の部屋が見えた。


普通の事務所と変わらないデスクが並んでいる中、一つのデスクだけ、異様に派手で、俺のポスターがサイドに貼られているのが見えてしまった。


「あれ、わざとだと思う。あなたに自分のコレクションを見せるために…」


リンクは呆れながらも、笑っていた。


無表情な青年かと思ったら、意外と幼く可愛い笑顔だ。


「なんか、いいね。リンクと李弥くんが並んでいる姿も絵になるよ」


お茶を運んできたルキトは、また、熱のこもった眼差しでこちらを見ていた。


なるほど、事務所ではこのリンクが彼のお気に入りらしい。


「ルキト、気持ち悪い」


リンクは、バッサリと彼の熱を断ち切った。



気を取り直して、俺たちは座り、本題へと入っていった。


「なるほど、自分じゃない誰かが、勝手にSNSを更新か…、有名人にはよく起こることだが」


「さすがに、自分と共演者との写真はあり得ないね」


ルキトとリンクは俺の話を、真剣に聞いてくれた。それが、非日常のような内容でも、それだけでも、気持ちが楽になる。


「それは、いつ頃から?」


「写真集のイベント後から…」


「やっぱり…」


ルキトは確信したように頷いた。


「わかっていたんですか?」


「ああ、あの会場の中で気配を感じていたからね」


ルキトは大袈裟に立ち上がった。


「李弥くん、あなたの依頼お引き受けしよう!この私が、精一杯尽くし、ドッペルゲンガーを退治して差し上げます」


この胡散臭いシルクハットの青年に、俺はもう縋るしかない。


「よろしくお願いします」


俺はルキトと握手を交わした。


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