第3話お渡し会・チェキ

その後、俺は一番の人から順番に机に積まれた自分の写真集を渡していく。


皆、前もってお金をはらっているので、紙に書かれた枚数分、写真集を渡していく。


2冊目の人とはチェキを撮る時間に、渡すだけの人より長く話ができたり、恥ずかしいのか、一言も話してくれない人もいたり、涙目になりながら、自分への好意を話してくれたりと、いろんな子がいた。


少数ではあるが、男性もいてゲームが好きで、そのキャラを演じてファンになったと言ってくれたり、ドラマをみて好きになってくれたりと、人目に出るようになって、本当にファン層が広がったことを実感した。


そして、ついにあの彼が登場した。


「こんにちは、初めまして朝雪ルキトです」


食い気味に自分の名前をいいながら、陽気に入ってくるのは彼が初めてだった。


俺は圧倒されないように、笑顔をしっかり作った。


「こんにちは、ありがとうございます。チケットもらいます…」


っと、チケットの枚数見た時にまたしても度肝を抜かれた。


「10冊も買ったんですか!?そんなに…いや、ありがた過ぎるけど」


びっくりし過ぎて、少しパニック状態だった。


「そりゃ、李弥くんのファンなので、チェキ5枚でも少ないくらい…でも、いいのです。今日こうして李弥くんと出会えたのも何かの運命」


いや、写真集買ってくれたら誰でも俺に出逢える…


なんてこと、言葉には出さない。


「とりあえず、なにか袋用意お願いします」


俺がスタッフの方にお願いすると、痛いくらいキラキラした眼差しを感じた。


「イケメンな上に、優しい。パーフェクト」


見た目だけじゃなくて、中身も表現も派手。


普通に暮らしていたら、まず接することのない界隈の人だ。


俺はスタッフの方から袋をもらって、10冊を手渡しした。


「結構重いので、気をつけて下さい」


「ありがとう」


俺よりも素敵な満面の笑み。


「では、チェキどうやって撮りましょうか?」


5パターン。


初めは並んで撮る。

2枚目はラブ繋ぎを見せつけるポーズ。

3枚目は俺が後ろからハグ。

4枚目はルキトが後ろからハグ。

5枚目は…


「じゃあ、よっこいしょ」


俺の了解なしに、ルキトは俺をお姫様抱っこした。


「えぇっ!?」


「李弥くん、軽!じゃあ、ラストお願いします」


最後の写真ばかりは引き攣った笑顔になったことを自覚した。


まあ、こんな個性的な人もなかなかいなくて面白いか。


「ありがとう、ルキトさん。また、機会あったら来てください」


「嬉しい!その笑顔、それじゃあ、これは本当はダメらしいけど、受け取って」


そう言って、手に握らされたのはカードのようなものだった。俺は、スタッフの方に気づかれないように、ジャケットのポケットにそれを入れた。


ルキトは笑顔で手を振って去っていった。



全ての行事が終わると、司会をやってくれた松崎が最後の挨拶にきてくれた。


「お疲れ様、凄い人気だったね」


「お疲れ様です、いや、僕も初めてで凄く楽しかったです。ありがとうございます」


「最後に僕とも握手してもらってもいいかな?」


「もちろん」


僕は松崎の手を握った時、真冬でもないのに、一番冷たい手をして、優しい笑顔に見えていた笑顔が、どこか怪しげな笑顔に見えてしまったのが印象に残った。

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