第2話お渡し会・トーク

俺がステージにくると、歓声と拍手でファンの皆さんが迎えてくれたことに、ホッとしていると、明らかに派手な客と目が合ってしまった。


というより、度肝を抜かれたという表現の方が正しいだろう。


白いシルクハットに、ピンクの髪の毛がみえていて、きっとメイクもしているのだろう、顔立ちがハッキリしていて、しかも整っている。


ヴィジュアル系バンドの方なのだろうか…

(2000年代系)そんな存在感の凄い人がいる中、司会の松崎は何事もなかったかのように、進行を進めていった。


「それでは、月谷くんへの皆様からの質問がこのボックスに入っているので、本人に引いてもらいましょう」


そういわれ、よくある正方形の箱に手を突っ込み、一枚紙を引き、松崎に渡した。


「それでは、読み上げます。李弥くんの好きな食べ物や飲み物教えてください」


意外と平凡な質問からで、安心していると、シルクハットの彼が無言でガッツポーズしているのがステージ上からみえた。


あんな派手な見た目だけど、中身は意外と普通なのだろうか。


「好きな食べ物は…なんでしょ?疲れると甘いもの食べたくなりますね」


「いいですね、甘いもの全般いけますか?」


「はい、甘いもの全部好きです!飲み物は甘いのも好きですが、糖分とりすぎは良くないので、ハーブティーとか飲みますよ」


すると、会場から「可愛い」という声が上がった。


我ながら、可愛い系で売っている実感はあるが、実際こうやって言われると照れ臭い。


それから3問ほど答えると、次が最後の質問となった。


「それでは最後の質問です。理想の自分はどんな自分ですか?」


最後に来て、まさかの難しい内容だった。


これは、素直に答えるべきなんだろうか。


「難しいですね…」


無言はなるべく避けなければいけない。


「もっと、自分に自信を持って、仕事に励みたいし、いろんな方とお話をして、刺激をもらって、お芝居にいかしたり…いろんな役をやりこなせる俳優かな…ちょっと真面目すぎましたかね」


俺が苦笑すると、みんなは拍手で答えてくれた。


「素敵な答えだったと思いますよ」


ふと、シルクハットの彼をみると、俺ではないがこちらを少し険しい表情で見つめていた。


なんだろう。


「それでは、お渡し会の準備をさせていただきたいとおもいますので、一旦、月谷くんには退席してもらいます。皆さま、大きな拍手でお見送り下さい」


俺は手を振りながら笑顔で去っていく。

ふと、もう一度シルクハットの彼をみると、誰より大きく拍手と手振りを繰り返していた。


なんだったのだろう、あの一瞬の険しい表情。


って、なんで俺はあの人のことばかり見ていたんだ…


派手過ぎて気になって仕方なかった…


これが、相手の策略かな。

まんまとハマったな。


そんな自分に少し笑って、今度はお渡し会に向けて小さなボックス会場へと移動した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る