フェブルクール
羽音衣織
第1話乗っ取り
「なんなんだよ!?なんで、何回もパスワード変えてるのに…しかも、こんな写真俺、知らないぞ」
俺は知らぬ間に更新されたSNSをみて取り乱していた。
俺の知らない俺が、勝手に動いて俺の生活に踏み込んでくる。
こんな非日常があってたまるか!
思い返せば、あの写真集イベント後にこのSNS乗っ取りが始まり、知らない自分の行動が増えてきた。
あの日、おかしな人…
思い返せば…いた。
***************************
俺は月谷李弥、23歳。
タレント事務所に所属している。
最近ではドラマや舞台、CMの仕事をもらえて、やっと知名度が上がってきたところだ。
SNSも仕事のうち。
ドラマや舞台の共演者と写真を撮ると、共演者ファンからもフォローしてもらえて、徐々に自分の売り出し方も、自分なりにわかってきた。
年齢より若い見た目から、学園モノの作品に出ることが多かった。
そして、今度は自身初となる写真集が発売される。
正直、自分の写真集が売れるかなんて分からない。けど、作ってくれた人にも俺は売らないといけない。
そこで、今度開催されるのが写真集イベントだ。
2冊買ってくれた人には、一緒にチェキを撮るという、よく皆んながやる商売方法。
正直、自分にどんなファンがいるかも知らないから、初めてファンの人と交流出来ることは純粋に楽しみだ。
「李弥、調子はどうだ?」
マネージャーの平本さんが、楽屋に来てくれた。
「ちょっと緊張してます。初めてなんで、ファンの方と触れ合うの」
「今日のチケット完売だぞ!やったな!これでお前はもっと忙しくなる。今でも忙しいけどな」
「本当に夢見たいです。ぜーんぶ頑張りますから!そろそろ、SNS上げようと思うので写真撮ってもらっていいですか?」
「本当にお前は真面目だな」
そういって、俺のスマホで写真を撮ってくれた。
今は調子にのる時期じゃない。
やっと掴んだチャンスを、自分の行い一つで泡沫なものにしてしまう恐れがある難しい綱渡りのような職業。
コンコン…
ノックをして入ってきたのは、30代くらいの背の高いスーツをきた男性だ。
顔はハーフのような顔立ちで、少し長めの髪を後ろで束ねていた。清潔感のある、馴染みやすそうな人だと笑顔から伝わってきた。
「こんにちは、今日司会を務めさせていただきます。松崎といいます」
意外にもしっかり日本の苗字だ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
初めはトークコーナーがあった。
今日集まってくれた100人だけトークに参加でき、そのあとは、お渡しとチェキがある人はチェキを撮るという流れだった。
「緊張してるね、大丈夫だから安心してなんでも話してください」
「ありがとうございます、楽しみです」
すると、もう1人のスタッフが現れて「スタンバイお願いします」と声をかけられたので、松崎と一緒にステージへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます