Prologue ヒナミ編 「このほしのれきし」

ヒトは、自らの命を投げ捨てる生き物だと、あの日教わった。

生きる意味を失うと、簡単にヒトは居なくなってしまうものなのだと、あの子の…サヨの歌を奪ってから気づいた。

『歌が歌えなくても、サヨには歌詞がある』

私がそう話してからも、サヨは歌詞を作り続けた。

あの日振り絞った勇気のせいで、私はサヨの居場所を奪っただけではなく。

私は、図書委員長としての居場所さえも失ってしまった。

図書室に行くと…「この人殺し」「貴女がサヨちゃんを殺した」と、みんなから罵詈雑言を浴びせられる様になってしまった。

私はあの日どうすることもできなかった。

もう後戻りはできない。

でも、せめて…サヨの居場所を作ってあげたいと、サヨが遺した歌詞ノートを大事に持っていた。

私は、この素敵な歌詞にメロディを奏でてあげたいと思うようになった。


けど、私には音楽の才能なんてこれっぽっちもなかった。

昔から本は好きだった。でも、音楽の本を読んでも私には一切理解ができなかった。

音楽科のある高校を選んだが、志望動機を話した時に友達のためだと話した。

結果は、数ある科のうち普通科を割り振られてしまった。

クラスの先生に、私の夢を話した。

「私の友達が遺してくれた歌詞に、メロディを奏でてあげたい」と。

先生は、音楽科の先生を呼んでくれて私に付き添ってあげて欲しいと助けてくれたのだ。

私は先生から音楽を教わった。

どうせ私には普通の人生なんて残されてないから、せめて音楽で人を助けたいと…。

先生に音楽を教わってから思うようになった。

編入試験に合格はしたものの、音楽科には夢を持って音楽の道を選んだ生徒は1人もいなかった。

私に「諦めたほうがいい」と話してくれたクラスメイトのアサヒは、この学校の音楽科の現状を教えてくれた。

ここにいる生徒たちは、生まれた頃から音楽に触れて育ってきて、音楽を作ることを将来付けられた子達ばかりだった。

そんな周りに、たった数ヶ月音楽を教わっただけの素人が入り込んではいけない世界だと、私に教えてくれた。

だけどアサヒは、私とサヨの為に音楽を作ってくれた。

今までで聴いた音楽の中で、最高のメロディだった。

アサヒは、「その曲が弾けるように、ギターを教えてやる」と言ってくれた。

アルバイトで稼いだお金でアコースティックギターを買って、私はアサヒにギターの弾き方を教わった。

でも、教えてくれたのはこの曲だけだった。

他の曲は、弾かなくて良いと教えてくれなかった。

アサヒは、私をジャパリパーク行きのフェリー着き場まで送ってくれたあと、こう話してくれた。

「私はヒナミにこれ以上音楽を教えることはないと思う。でも、一緒に作った歌さえあれば私達は何処へだって行ける。たとえ遠くに離れても、私達は歌で繋がってる。」

最後に私はアサヒと握手をした。

絶対にこの歌をジャパリパークに届けると約束して。


リクホクチホーの船着き場行のフェリーまでまだ時間はある。

ジャパリパークには、アニマルガールというヒトの女の子になった動物がいるという。

そんなの、絶対に嘘だと言うクラスメイトもいたが、アサヒは信じてくれた。

サヨと約束した私のことを、最後まで信じると言ってくれた。

フェリーに乗る前に、今季採用のパークスタッフ向けの説明会を聞いた。

ジャパリパークからリモートで、憧れのカコ副所長が私達にジャパリパークとは何かを教えてくれた。

ジャパリパークは、沢山の出会いと奇跡で溢れた素晴らしい場所…まさに楽園だと語ってくれた。

1つの島に色んなチホーがあって、そこに住む様々なアニマルガール達。

そんなアニマルガール達と、私達は友好関係を結んでいる。

私達はアニマルガール達のことを、愛を込めて「フレンズ」と呼んでいると、そう語っていた。

その言葉にワクワクしながら私と他の合格者達はフェリーに乗り、ジャパリパークまでの船旅を楽しむことにした。


しかし突如、雲行きが怪しくなり大雨が降り始めた。

津波が発生すれば、私達は大きな波に飲まれてしまう。

嵐が吹き荒れ雷が落ち、私達は絶対にパークまでたどり着けないと…諦めそうになった。


「嫌だ…絶対に!こんなところで終わったりしたくない…!」


それからの記憶は、何故か綺麗に抜け落ちてしまっていた。


目を覚ますと、そこには沢山の恐竜の化石や、動物の剥製や標本が置いてあった。博物館…?

「目覚めたか ヒト」

ヒト…私の事かな。

誰かに声を掛けられた。

「えっと…私はヒナミっていいます。ここってジャパリパーク…ですよね。博物館みたいな…」

ここはこの星の歴史だと、その子に沢山の化石や剥製を見せてもらった。

名前は、タテガミズクと言っていた。図鑑でしか名前を見たことがないけど…きっと鬣のような立派な羽毛があるから間違いない。

「どうだ、初めて見るものもあっただろう。私はここがお気に入りでな…」

私も、ここが気にいってしまった。

「ねえ、外には出られないの?」

タテガミズクは振り向かずにこう言った。

「私は…ここから出たことがない。ヒナミに見つけてもらえなかったら、ココがジャパリパークだと言うことも知らなかった」

私はタテガミズクの手を引いた。

「きっと外には沢山フレンズがいるから、外に出てみようよ」

私はタテガミズクと一緒に博物館から出た。

そこには、広いサバンナが広がっていた。

沢山の、見たこともない動物が女の子になって

草原を駆け回っている。

ずっと、夢だった場所。

ここで私は5年間アニマルガールの発見の報告を貰っては研究をし、沢山のフレンズを作った。

タテガミズクに私の夢を話し、目の前でアサヒが作ってくれたメロディを弾いた。

タテガミズクは感動したと、私の夢を応援してくれると言ってくれた。

「歌う犬か…ここではまだ見たことがないな、でも…ヒナミをこれまで支えてあげたんだ、見つかるまで応援する」

タテガミズクと、沢山のフレンズに囲まれて…。

私はついに「ニューギニアシンギングドッグ」の発見の報告を受けた。

胸が高鳴る。ようやくこの日が来た。

「サヨ…私、やっと夢を叶えたよ」


それが、私とシングの奇跡の始まりだった。


1話 シング編に続く。




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