1話 歌を繋げよう
第1話 シング編「こころのうた」
いつも、私の心には歌があった。
歌を歌うだけで、いつも勇気が湧いてくるの。
そんな私の歌が、いつか世界中の人たちを勇気づけられたら、あの子も笑ってくれるかな…?
私は、そんなことを思いながら目を覚ましたのだった。
しかし、ここに来るまでの記憶がない。
私はどこまで歩いたのだろう。
辺りを見回しても、そこにはただ草原が広がっている。
珍しい形の木が沢山生えていて、あの子が読んでいた動物図鑑のサバンナの風景を思い出していた。
「あれ?…あの子って…誰のことだったかな?まあいいか、進もう。」
ただ、ここには誰もおらず、歌を歌うにはちょうどいい場所だった。
「誰も…いないよね」
じゃあ、思いっきり歌おう。
『♪歌が僕らを繋ぐんだ 心に虹がかかるような 気持ちがほら宙に浮かんで どこへだって飛べるよ』
物陰から物音がしたような気がした。私は耳を立てながらも気にせずに歌う。
『♪夢が願いを紡ぐから 奇跡なんて起こらなくても 僕らは歌で繋がってる』
これから出会う奇跡はきっと偶然なんかじゃない。
私たちは心から分かり合える、最高の友達なんだ。
『♪1人じゃないよ ベスト・フレンズ』
歌を歌い終えると、物音が大きくなり人影が姿を出す、褐色肌をしたマフラーを巻いた少女が現れる。
「なんだ、そんな大きな声で歌って…。俺に見つけて欲しかったのか?」
私は慌てて首を振る。
「ううん、そうじゃなくて、みんなに聞いて欲しかったの」
私はマフラーの子の目を見てしっかりと話す。
「私の心から溢れ出す言葉を!メロディを!みんなに!」
私はマフラーの子の手を引っ張って、草原を駆け回る。
『♪ああ ココロが騒いだら 私の歌は止まらない
耳を澄ませて 聞こえてきたのは』
『♪ココロの音と キミの高鳴る想い
沢山の友達に 聴いてほしかったんだ』
『♪夢中になって笑うんだ
未知なるステージへ!走り出そう!』
『♪この胸から聴こえる 私のココロのメロディ
手を取って駆け出して キミのココロが聴こえる』
『♪夢を数えたら もう頭が一杯で
聴いて欲しいんだ ココロの歌を』
『♪溢れだしたら止まらない 私のココロのメロディ
知らないあの子にも 私の歌は聴こえるかな?』
『♪歌が聴こえたら 今手を伸ばそう
届いて欲しいな 私の大好きの気持ちを』
マフラーの子は突然歌い出した私を見て、静かに笑っていた。
「お前、歌が大好きなんだな」
ーー届いた。
私の、歌が大好きな気持ちーー。
「…うんっ!」
ようやくあの子以外にも、私の気持ちが届いた…!
「そういえば、名前…聞いてなかったよね…私は…えっと、あれ?」
私の名前、思い出せない…。
「どうかしたか?名前を忘れたのか?」
いつもあの子に呼んでもらう名前があったはずなのに、思い出せない。そもそもあの子って…
ふと思い出そうとした時、私の脳内に、いつかの惨劇が蘇る。
『私は歌を失った…』
『私にはもう何も残されてないの…』
『もう一度あの頃に戻りたい…』
『そして、もう一度…』
『歌が好きだったあの頃に…』
もう一度やり直して…そして、あの子を。
私の、言の『刃』で。
あの日の私は、もうどこにもいない。
全部、ヒナミ〈あの子〉のせいだ。
あの時のどす黒い気持ちは、もうどこにもないはずなのに。
私は歌が大好きで、今もこうして歌えている。だから…
『違う…!こんなの私じゃない!』
「…っ!」
ふと、我に返ると、私は建物の中にいた。
そして、眼の前にある鏡を見るとそこには、私が映っている、はずが。
「あれ?」
そこには、犬の耳が生えた私が映っていた。
後ろに手を回すと、そこにはもふもふの尻尾があって…
「やっぱり!私じゃないじゃん!!」
私は、なぜか…動物の女の子に変身してしまいました。
でも、一つ気になる事がある。
「私の名前、何だったかな…」
私の名前だけが思い出せない。
「歌が大好きな気持ちは、今もあるのに…っていうか、ここどこだろう?」
後ろからさっきのマフラーの子が話しかけてきた。
「何だお前、ずーっとぼっとしてたぞ」
赤いマフラーに気を取られていたせいか、その子にも犬の耳がついているのに気づかなかった。
「あなたにも耳と尻尾が…」
すると、その子の所に茶色のコートに眼鏡をかけた背の小さな女の子がやってきた。
「お前、名前が思い出せないようだが、テガミちゃんが資料を報告した所によると、お前はニューギニアシンギングドッグだそうだ。少々長いが縮めて呼ぶのかどうか決めてほしいのだが」
というより、全く状況が掴めていなかった。
何この子たち…。背の小さな眼鏡の子も、よく見ると頭が羽毛のようになっていて、前髪にミミズクの耳羽のようなものがついている。
「私も、動物…なのかな」
私という存在がどういうものなのか、全く認識できていなかった。
「お前、動物だった頃の事を覚えていないのか?」
動物"だった"…?眼鏡の子に言われ少し困惑している。
「あの、よくわかりませんけど…私ってなんなんですか?名前も思い出せないし、あなた達もどういう存在なのかよくわからなくて…」
すると私の前でマフラーの子が凄い喧騒でこちらを睨んでいる。
「俺たちはフレンズ、アニマルガールだ。動物がヒトの姿になった奴らのことをそう呼んでいる。お前もそうじゃないのか?」
動物が…ヒトに?嘘だ、そんなのあり得るわけがない。
それを聴いても、状況が上手く飲み込めなかった。
「そんなのありえないですよ、だって私…」
いや、わからない。私がヒトだという確証は全く無い。
「でも、なんだかとても嬉しい気がする。…名前も、自分のこともうまく思い出せないけど、私の心の中には歌いたい気持ちだけが残ってて…そうだ!あなたは何の動物なんですか?えっと…アニマルガールって言ったほうがあってるのかな」
私は恐る恐る聞いてみる。多分…犬とミミズクだと思うけど…
「俺はタイリッジバックドッグって呼ばれてる。で、こいつはここの館長やってるタテガミズクのテガミちゃんだ、そして俺たちがいる場所は博物館で、色んな化石が展示してある」
博物館には、あの子にもよく連れて行ってもらったなあ。あの子、恐竜も大好きだったし…。
「生き物には、長い歴史がある。遥か遠い昔から生き物は進化し続け…姿形を変えて、今もこうしてこの星を生きている。」
タテガミズクちゃんに連れられ、私とリッジバックちゃんは色んな生き物の標本、剥製、そして、恐竜の化石を見せてもらった。
「君の大好きな音楽…歌もそうだ。長い歴史をかけて音楽も姿形を変えて、この星では今も新しい音楽で溢れている、だから…」
タテガミズクちゃんに広い博物館をじっくり見せて貰ったあと、一旦リッジバックちゃんと別れ、私はある研究施設に連れて行かれた。
「あっ、テガミちゃん!遅かったじゃん!早速連れてきた新しいフレンズの調査を…」
私達を呼ぶ声が聴こえる。あれ…この声って…。
「ニューギニアシンギングドッグのアニマルガール、ようやく会えた。私、あなたと歌が歌いたいの」
えっ…もしかして…。
「ヒナミ…久しぶり」
すべて思い出した。あの時の後悔も、屈辱も。すべてヒナミのせいだ。
「えっ…私、あなたと何処かで会ったかな…」
私から歌を奪ったのは、全部…。
「覚えててくれたんだ。歌う犬と一緒に歌う約束」
ヒナミは、悲しそうな表情で私を見つめる。
「…あなた、もしかしてサヨの事知ってるの?」
やめて。
「その名前を呼ばないで。…私から歌を奪ったくせに」
この際、はっきりとさせてしまおう。
「私、ヒナミと出会ってから、1人で歌ってた頃よりもっと歌が大好きになって、それで必死に夢を叶えたくて…ずっと頑張ってたのに…どうして…なんでこんな簡単に終わらなくちゃいけなかったの!?」
あの時、私の夢は唐突に奪われて、目覚めたらこんな姿になって…何もかも間違ってる。
「でもまだ諦めきれない…私の大好きだった気持ちを、どうやったら叶えられるの?教えてよ…」
まだ、胸には大好きな気持ちがいっぱいあるのに…ヒナミと、一緒に叶えたかった夢があるのに…。
「話はそこまでだ」
タテガミズクちゃんが会話に割って入る。
「お前らが何を約束していたかは分からんが、事情なんてこの際どうでもいい。シング…歌え。そいつと一緒に」
シング…?
「シングって…私のこと?やめてよ…私に歌なんて…もうどこにも…」
私にはもう何も残されていない。私に歌なんて、もう…
「俺は知ってるぞ、お前の大好きの気持ち」
リッジバックちゃん…?
「あの時俺以外誰もいないと思ってただろ?でも、お前の歌を聴いたやつが俺以外にもいたんだってさ」
リッジバックちゃんが、私の歌声を聴いたというフレンズ達を集めてくれた。
「お前のその大好きな気持ち、思いっきり俺達にぶつけてこい」
私には…まだ大好きな気持ちがまだ残ってる。この気持ちは、ヒナミが教えてくれたんだ。
「サヨ…ううん、シング、もう一度叶えよう。私と一緒に」
ココロが騒ぐ。大好きなメロディが溢れてくる。
「…ありがとう!ヒナミちゃん!一緒に、歌を歌おう!」
『♪Sing a Song! キミに! 歌おう!』
『♪ねぇねぇ!そこで何してるの?
楽しくないならここを飛び出そうよ!』
『♪ランラン♪手を繋いで!みんなと輪になって!
ここで歌おう!一緒に!ワオーン!』
『♪上手く笑えないそこのキミも
恥ずかしがりのあのコも』
『♪歌に乗せて!みんなで声出して!
心に湧き上がるフレーズを口に出そう!』
『♪始めよう!一緒に!』
『♪思いのままに!言葉をメロディに乗せて!
そこの!(キミも)キミも!(キミも)歌おう!(歌おう!)』
『♪歌で幸せを運ぶんだ!ランランラン♪
今日はどんな歌に会えるかな!』
『♪明日も歌を探しに行くんだ!』
『♪Sing a Song! みんなで! 歌おう!』
『♪いつでも! どこでも! ランランランラン♪』
『♪ワオーン!』
第一話 ヒナミ編に続く
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