第2話 N・ハイランドワイルドドッグ編 「わたしのなかま」

「ここは、どこ…?」

 私は誰もいない霧のかかった山奥で誕生しました。誰にも見つけてもらえず、どんなに叫んでも…泣き喚いても…この声が届くことはありませんでした。

「私は…ここにいるのに…どうして?」

 そんな時、私は歌を歌いました。

 私はここにいると。

 私の仲間は、どこにいるのと。

 すると遠くから声が聴こえてきて、こちらに向かってきました。

「そっちに誰かいる!ドール!探すよ!」

「任せて下さい!隊長さん!」

 私の目の前に現れてくれたのは、今も大切なあの人でした。

「見つけてくれて、ありがとうございます…」

 ずっと、大好きな隊長さんといつまでも…

 大好きな歌を歌いたいです。


 私は、N(ニューギニア)・ハイランドワイルドドッグという、歌うことが大好きなフレンズです。今日も言葉を探しにヘビクイワシさんから沢山の本を借りて読んでいます。

 言葉を知るというのは、私の素直な気持ちを歌にするため。

 ココロから溢れ出すメロディを、言葉にして歌にできれば、きっと隊長さんと、沢山のフレンズ達が喜んでくれるはず。

 見つけてもらったあの日からずっと、続けていること。


 でも、私は隊長さん以外のヒトを見つけてしまうと、歌えなくなってしまいます。

 緊張してしまって、隠れてしまうんです。

 唯一目の前で緊張せずに歌う事ができるヒトは、隊長さんだけ。

 でも私は、そんな自分を変えたいんです。

「あ…あの。ナナさんとキタキツネちゃん達、本当に私の為に来てくれるんですか?」

 そんな時、飼育員のナナさんが、「沢山のフレンズ呼んでくるから、私の前でも歌を歌ってよ!私をフレンズだと思って!」って…。

 キタキツネちゃんはキツネのフレンズ達を沢山呼んできてくれて、イエイヌちゃん達3人も一緒に、私の歌を聞きに来てくれるそうです。

「ニューちゃん。私はニューちゃんの歌声を沢山のヒトに聴いてもらいたいんだ」

 私をニューちゃんと呼ぶのは、ここに大きなセルリアンが出た時に、私を助けてくれたフレンズでした。名前をティアマトさんといいます。

 ティアマトさんと私は、フレンズになりました。

 でも、ティアマトさんって何の仲間なんだろう。ヘビ…?ヤギ?それともラクダ?聞いてもはぐらかされてしまうし…。

「私に…できるかな。沢山のヒトとフレンズの前で歌う事…」

 そんな時、ティアマトさんは外にいるという私の仲間について教えてくれました。

「できるよ。君は凄く頑張り屋だから…パーク中だけじゃなくて、パークの外にも歌を届けることができる。きっと君の仲間にも届くはずだよ」

 私の…仲間。

「私の仲間…この前ティアマトさんが話してくれたシングちゃんのことですか?」

 パークの外にあるという、「新与那国島」と呼ばれるあの島に住んでいる、私と同じ歌う犬の仲間のフレンズ。

「今度、私がラッキービーストの通信を向こうの島に繋げてみる。でも、2つの島を繋げるのは、ニューちゃん。君の歌だよ」

 私の歌で?でも、どうやって…

「私の歌…シングちゃんに届くのかな…」

 私達は、新与那国島に行くことができません。

 時空の歪みというものが私達をあの島に近づけさせないようにしています。その言葉について、私が隊長さんに聞いてみると、「カレンダさんの方がその辺の話に詳しいよ」と言ってくれました。


 私は、勇気を振り絞ってカレンダさんに話しかけてみることにしました。怖いけど、いつもフレンズ達に話しかけているみたいに…。

 カレンダさんは、ジャパリ団の3人と一緒にインカム型時空転移装置「LV(エルヴィー)システム」の試作型のテストをしていました。その事は、隊長さんと探検隊のフレンズ達から聞いていました。

「あ、あの…カレンダさん、少し聞きたいことが」

 すると、カレンダさんはこちらを振り向いて元気に挨拶してくれました。

「あら、ハイランドワイルドドッグじゃない。珍しいわね、あなたが隊長以外のヒトに話しかけるなんて」

 やはり向こうも、私が隊長以外のヒトに心を開ききれてないことに気づいてくれていたようで…。

「今度、私ナナさんや沢山のフレンズ達の前で歌を歌うことになったんですが…いや、要件はそれじゃなくて」

 私は慌てて首を振って、もう一度要件を言い直しました。

「向こうの島に発生している…じくうのゆがみ?ってなんですか?どうして島に近づけないんでしょうか…」

 すると隣のジャパリ団達が話を聞いていたようで…。

「あの島には確か…じゅうりょくは?ってやつが発生してて、それで時間と空間どっちにも歪みが発生してるんだ」

 タスマニアデビルちゃんが私に説明してくれてました。この子の歌声も、遠くまで響いてとても大好きなんですよね…。

「近づいちゃうと、凄い重力に吸い込まれて…みんな何処かに消えちゃうみたい」

 オーストラリアデビルちゃんは笑顔で恐ろしい事を言っています。そして、ブラックバックの団長さんが高笑いしながらこう言いました。

「あれに近づくと我々は即座に無に帰すのだ…いわゆるブラックホールという深淵の闇だな…深淵を覗けば深淵に覗き込まれる…クク…闇のフレンズである我々が解明するしかなかろう!フハハハ!」

 ブラックバックちゃんはカレンダさんが言っている事がわかるみたいだし、きっとこの子たちなら向こうの島に歌声を届けさせる方法を知っているはず…!

「でも、おかしいのよね…そもそも時空の歪み、ブラックホールというのは宇宙空間で観測されるもの。そんなものが大気圏内…重力下で観測されるなんて…。やはりセルリアンがこの超常現象を生み出しているとしか思えない」

 新与那国島にどうやって近づけるのか、カレンダさんとジャパリ団の3人は一つの答えを導き出したのです。

「私が導き出した法則とその法則によって導き出された数字を、メロディとして奏でる…でもそれは全くメロディとは言えない雑音なの。数学を音楽に持ち込んだクセナキスの作曲法を参考に試してみたのだけど、あまりにもこれは…」

 私はLVシステムに組み込まれた音を聞いてみましたが、やっぱり…これは音楽というより…鍵盤や弦を乱雑に弾いたような音だったり、ちょっと不気味な…そんな音でした。

「だから…お願いハイランドワイルドドッグ。この音を…メロディとして、音楽として…歌として奏でて欲しいの」

 私がこの音を歌として…?

 作曲は本で勉強したことはあるけど、既に法則性のある音をメロディに変えるのは、初めてでした。

 ジャパリパークと新与那国島の時空を繋げる。それが私の使命になりました。

「わかりました、カレンダさん。その音の楽譜を私に見せてもらえますか?」

 音をメロディにするには、いらない音を消したり、付け足したり、音を変えたり…簡単なことじゃ無いけど…

 ココロでいつもメロディを奏でてる私にしかできないこと…。

「もっと沢山、本を読まなきゃ」

 そして私は、ヘビクイワシさんから沢山本を借りて、音楽について沢山勉強しました。これは…私の想いを…私の仲間、シングちゃんに繋げる為…!

 カレンダさんにも、さまざまな作曲法や音楽理論について沢山教えてもらいました。


 そして、2週間が経ちました。


「…できた…できました!想いを繋げるメロディが!」

 そして出来上がったメロディは、「Link Verse Song (世界を繋げる歌)」として、LVシステムに組み込まれました。

 二週間の間に、LVシステムの仕事と並行して私のココロから溢れてくるメロディを歌にしました。

 ナナさん達の前でその歌を歌うことに成功し、無事にみんなに歌を運ぶことができました!

「すごいよハイランドワイルドドッグちゃん!私感動しちゃった!」

 ナナさんもキツネのフレンズ達も、イエイヌちゃん達も喜んでくれています。

「皆さん、ありがとうございます!」

 ステージの裏に戻ったあと、ティアマトさんに呼びかけられました。

「ラッキービーストの準備ができたよ。時空転移は選ばれたフレンズしかできないけど、LVシステムを完成させてくれたおかげで向こうの島とも通信ができるようになったよ!ニューちゃん、本当にありがとう!」

 ティアマトさんは私のことを抱きしめてくれました。本当に優しいフレンズだなあ。


 そして、私はLVシステムを起動させ、向こうの島のラッキービーストに通信を接続させました。


 そして私は、向こうの島にいるヒナミさんと、シングちゃんと話すことができました。

 ヒナミさんとも約束をしましたが、これは二人だけの秘密です。

 シングちゃんとも一緒に歌を歌う約束をしました。


 私が、ジャパリパークを向こうの島に繋げたんだ。

 そう思うと、胸が高鳴って、いつまでも歌いたくなりました。


 第2話 ヒナミ編に続く。


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