第1話 カコ編 「いつわりのらくえん」

私たちのパークで、突然異変が起こった。

私達の日常が、突然侵略され始めた。

「特異級セルリアン…」

パークの外から飛来してきたセルリアン。通称デストラクティオを、ジャパリパーク内で確認。

これらを発見当初はセルリアンである事が特定困難だったため、通称 外来特殊生物と呼称していたが。

デストラクティオの痕跡を分析した結果、セルリウム由来のものと判明。今後、これらを特異級セルリアンと認定し、パークのさらなる外敵であると認定した。

このデストラクティオの他にも、ディザストロ、プロディデンティア、レナトゥスなどの個体を発見している。これらはパークのフレンズ総動員で排除し、殲滅したと思われるが、セルリアンの特性上、これらの個体がパーク内で発見される恐れがある。

被害は守護けもの達のおかげで最小限で済んでいるが、この先もパーク外からのセルリアンの侵略があった場合、試作中だった「サンドスター供給装置」。

通称「SSデバイス」を島外調査の為に実装運用しなくてはならない。

試作用SSデバイスは、サンドスターの供給に限度がある為、麒麟達四神の手によって開発を中止させられ、セントラルの地下深くに厳重に封印されてしまった危険な装置。

これはアニマルガールの活動範囲を大きく広げるために開発していたもの。

私が望んでいるのは、ここにいる沢山のアニマルガール達の自由と笑顔。

ここは、私たちの楽園なのだから。絶対になんとしても守らなければいけない。

こんなものを作らなくたってきっと、私たちが幸せに暮らせる未来が来るはず。

でも…。

「今季の採用予定だったスタッフの中ただ1人、ヒナミは今も行方不明…」

私を憧れだと慕っていたあの子は、ディザストロによる災害で発生した津波によってたった1人、今もどこかで彷徨っている。

ヒナミ以外のスタッフらは無事保護できたが、この数ヶ月、彼女の発見の報告は今もない。

しかし、そんなヒナミからの通信があった。座標は…不明。しかし、ヒナミの通信を受信したラッキービーストを調べると、通信座標は北緯24度、東経123度付近だと判明。きっとここにヒナミはいるはず。

「カレンダ、貴女だけが頼りよ。絶対にヒナミを助けてちょうだい。」

でも、なんでそんなところからラッキーに通信が?違和感を感じているが、フィールドワークの得意な彼女に任せるしかない。

「ええ、絶対に見つけ出して見せるわ、貴女の大事な後輩だもの」

しかし、カレンダによる調査は決行されなかった。守護けもの達が外に出るのはやはり危険だと、何度も私も説得しようとしたが。ダメだった。

「その子の通信によれば、そこにはフレンズ達もいるそうじゃないか」

ビャッコは安心したような素振りをし、ゲンブは知らぬ素振りをしていた。

スザクはむしろ熱くなっており、最後にセイリュウがこういった。

「外の問題は外の者のみで解決させなさい。私たちが介入できる問題じゃないの」

四神は、ヒナミの救出に協力的ではなかった。

どうして…。なんで外にアニマルガールが居るの?絶対におかしい。

諦められず、私は他に何か無いかと必死になって資料を探した。

しかし、それらしき情報は無く、1ヶ月が過ぎてしまった。

ある日、ドールと隊長が四神達に会いに行きたいと、私に通信をくれた。

ドールはずっと、ヒナミ達のことを心配していたのだ。

『外の問題なんかじゃありません。わたしは絶対に助けたいです』

ドールは、ずっと諦めずに解決策を探していたのだ。

『隊長さんだって、同じ気持ちです』

私はドールの気持ちを尊重したいと、カレンダとの同行を条件に島外調査の要請を出した。

要請は受理され、私達は調査に向かった。

座標によると…沖縄県の「与那国島」付近である事がわかっている。

ここには遺跡だと言われている海底地形もあるし、ティンダバナという標高100mの山がある。一度は行きたかった場所だった。

あそこには「イヌガン伝説」という犬とヒトが交わったとされる伝説が残っている。まるでドールと隊長のようだと、カレンダが笑っていた。

しかし、海底地形付近には何故か大きな重力波が発生しており、私達は海底地形まで近づけなかった。


そんなある日、重大なニュースが舞い込んできた。

「海底遺跡が浮上…?」

なんと、近づけなかった海底遺跡が突然浮上を始めたという信じられない現象が起こった。

しかし、浮上したのは遺跡では無く島であり、日本列島と同じ形状。つまり、ジャパリパークと同じものだった。

しかし、この島にはやはり大きな重力波が発生しており、近づくことはできずにいた。

私たちはこの島を「新与那国島」と名づけ、とあるものは「創造の方舟」ゲネシスアークであると語っていた。

意味のないと言われていた海底地形が、島となって突然この地球に誕生した。これはきっと奇跡なのだと。

ー思っていた矢先だった。


パーク内にてデストラクティオの発生を確認。

この特異級セルリアンは長距離移動を得意とする為、必ずあの島にも襲撃するはずだ。

なんとしても阻止しなくてはならないが、私たちには為す術はない。

どうすればいいのだろうか。

守護けもの達は、パーク全域に結界を張ろうとしていた。しかし、今ある力だけではどうにもできないと、思っていたところだった。

そのけものが現れたのは。

そのアニマルガールは自分のことをティアマト、シュメール神話の地母神を名乗っていた。

そんな物がパークにいるわけが…なんて思っていたけど。もう、何が起きても驚いたりしない。

この星は、奇跡で満ち溢れているのだから。

私はティアマトと何度か話をした。

彼女はこの星の創作物が大好きだと語っていた。ヒトが作り出したものは素晴らしいと、沢山の創作物を私に教えてくれた。

きっとこの子はヒトへの愛に溢れているんだなと、静かに思った。

彼女はゲネシスアークの事をどう思うのかと尋ねたが。

答えは私の想像していたものと違っていた。

「あれは偽りの神々が生み出した偽りの楽園だ。いつか必ず崩壊が起きる」

と、そう言っていた。続けてこうも言っていた。

「でも、私は偽りでもあの島を愛している、たとえあの島に響く歌が、あの楽園が偽りだとしても、きっと彼らは奇跡を生み出してくれるだろう」と。


そしてティアマトは、N(ニューギニア)・ハイランドワイルドドッグのアニマルガールととても仲良しになっていた。

ハイランドワイルドドッグは、あの島にいると言う「ニューギニアシンギングドッグ」のアニマルガールの話をティアマトから聞き、とても胸を躍らせていた。

あの子は、50年も人に見つけてもらえずに、ずっと寂しい想いをしていたという。

だが、向こうの島に仲間がいる事をすごく喜んでいた。

「あの子も言っていたよ。私も、あなたと歌う事がずっと夢だったって」

ティアマトはハイランドワイルドドッグにシンギングドッグの夢を語った。

「そうなんですね…私も、シングちゃんと一緒に歌いたいです」

だが、今はハイランドワイルドドッグの夢はまだ叶わない。

あの島には私たちは近づけないのだ。どんなに焦がれても、私たちが交わることはできない。

私は、すごくもどかしい気持ちを抱えていた。

この島のフレンズ達を、どうにか新与那国島まで送ってあげられないか。

特に、ドールはずっと助けに行きたいと思っているのだが。

行くすべが無くては、私たちはどうすることもできない。


突如、新与那国島に向かって、特異級のセルリアン達が侵攻しようと始めていた。

奇跡でも起こらなければ、きっと新与那国島の輝きは奪われてしまう。

私たちは、そんな奇跡を起こせるのだろうか。

だが、そんな奇跡を、このパークのフレンズ達はなんとしてでも叶えようとしているのだ。

守護けもの達は、新与那国島に発生しているのは、約5年の時空の歪みだと、ヒナミの通信から推測している。

カレンダとブラックバックは2人で導き出した法則を利用し、その数式をメロディとして奏でる事によって発動する、時空転移することのできる装置「Link Verse System」略称「LV(エルヴィー)-システム」を生み出したのだ。

しかし、この装置で時空転移できるのは3人のフレンズだけ。それ以上の転移は、奇跡の力でさえ難しいと、言っている。

そして四神達はこの島のフレンズ達から、サーバル、ジェネット、そしてドールを選抜し、あの島に転送する事にしたのだ。

きっと、このパークなら奇跡を起こす事ができる。

私は、そう信じている。

私は、絶対にこの奇跡を起こして見せる。


2話 N・ハイランドワイルドドッグ編に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る