第9話 双葉と上書き
タクシーの運転手に無理を言って飛ばして貰い、約5分で柊の家の前へと到着する。
そしてマンションのエントランスへと入り、LINEで送られてきていた部屋番号をコールした。
数コールの後、音声が繋がる。
「はい……」
「柊、俺だ。待たせたな」
「太一、来てくれてありがとう。開けるね」
エレベーターに乗り、柊の部屋がある12階へと向かう。
目的の部屋のインターフォンを押すと、柊がすぐに出てきて俺に抱きついてきた。
「怖かった……」
「そうだよな、とりあえず話聞くから中に入れて貰っていいか?」
「うん、このままくっついててもいい?」
「ああ」
普段の元気な柊とはまるで違う。
相当参っているようだった。
柊の家は3LDKの広々とした落ち着いたものだった。
もう夜遅くになるが、両親の姿は見えない。
「柊、ご両親はまだ帰ってないのか?」
「帰って来ないよ。4月から二人とも海外出張で家を空けてるの」
こんな可愛い娘を一人置いてと不満を言いたくなるが、ぐっと堪える。
「そうなのか。それで襲われたって言ってたけど何があったんだ?」
「さっき宅配便の業者が来たの。ちょうど昨日注文したものがあったからそれだろうなと思ってドアを開けたら中に入り込まれて犯されちゃった……」
柊が犯された経緯を聞いて怒りが込み上げてくる。
「聴き辛いんだけど妊娠とかは大丈夫なのか?」
「うん、私も樺恋と同じで生理が重くて普段からピル飲んでるから大丈夫。それよりも初体験だったのに……初体験は好きな人としたかった」
柊はショックを隠しきれず、目尻に涙を溜めている。
「ひとまず最悪の事態は避けられたみたいでよかったよ。あとそんなの初体験ってカウントする必要ない。好きな人とした時が初めてだ」
「そう言うなら太一が初体験の相手になって欲しい。樺恋の時みたいに上書きしてよ。実は中学の時から太一のことがずっと好きだったの。だから今日樺恋と太一がシてるって聞いて結構ショック受けてたんだ……でも樺恋とはまだ付き合ってる訳ではないんでしょ?」
「藤宮さんとは付き合ってないぞ。それより俺も中学の時からずっと柊が好きだったんだ。……初体験の相手になるっていうのは、それで柊の気持ちが落ち着くなら構わない」
こんな時で不謹慎かもしれないが、柊が俺を好きだった事実に舞い上がってしまう。
ただ同時に藤宮さんの笑顔も思い出されて心が詰まった。
「そうだったんだ、嬉しい。最悪なことがあったばかりだけどいいこともあるもんだね。えっと、身体綺麗にしてきていい?」
「その前に警察に行かないか? 被害届を出さないと……」
「外に出るのはまだ怖いな……」
「分かった、俺が代理で提出してくるよ」
柊から鍵を受け取り警察へと向かう。
被害届を提出すると、藤宮さんの時と同じでパトロールの強化をするとのことだった。
そして、部屋に戻るとピンクのシルクのパジャマを着た柊が抱きついて迎えてくれる。
「太一ありがと。じゃあ私の部屋に来て。太一にも気持ちよくなって貰えるように頑張る」
「俺はいいよ。柊そんな気力残ってないだろ?」
柊の部屋に入ると一面パジャマと同じピンク色の女の子らしい部屋だった。
お互いにベッドに腰掛け、まずはハグをする。
「太一、キスして欲しい……キスはさっきされなかったから本当に初キスだよ?」
「ああ、俺も実は初めてなんだ」
そう、藤宮さんとエッチはしたが、まだキスはした事が無い。
「えへへ、樺恋より先に頂いちゃお♡」
俺達は探り探り唇を押し付け合う。
暫くすると柊が俺の口の中に舌を入れてきた。
「はぁ……はぁ……キスだけでも凄く気持ちいい♡ じゃあ口でシてあげよっかな?♡」
「ええ!? ちょっと待ってくれ!」
俺が慌てている間に、柊はベットから降りて俺の前に膝をついた。
◇
「はぁ……はぁ……太一激し過ぎ。そんなに私の身体気持ちよかった?」
「柊こそ上に乗ってる時激しく動いてただろ?」
「だって気持ちよかったんだもん♡」
「ちょっとは元気になったみたいだな」
はじめ家に来た時は、相当ショックを受けていたようで心配したが、今は少し回復してくれたようで安心する。
「太一のおかげだよ。でも明日から私普通に生活できるかな? やっぱり犯人が捕まらないと外に出るのは怖いな」
「もし嫌だったらいいんだけど、俺もこの家に暫くの間住まわせて貰うのはどうだ? あと藤宮さんも一緒だと助かるんだけど」
今の俺は柊と藤宮さん、どちらかを優先することはできない。
だから二人同時に守ろうと思うのだ。
「太一らしいね。私としては太一と二人きりラブラブ生活もよかったんだけど、樺恋も加えて三人で仲良く生活しよう」
「ありがとう。じゃあ藤宮さんには明日来て貰うことにするよ」
これが俺達の三角関係共同生活の始まりだった。
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