第5話 二回目の上書き
藤宮さんの晩御飯のメニューはカレーとサラダだった。
食べ終わった俺達は、動画配信サービスで海外ドラマを見ながら寛いでいるところだ。
「冬夜さんすみません。晩御飯簡単なもので。初めてお出しするもので失敗したくなかったので……」
「いやいや、手料理なんて本当に久し振りだったから美味しかったぞ。また明日からコンビニ弁当になるかと思うと気が滅入る」
高校に入って以来一年間、ほぼ実家に帰っていなかったので、本当に手作り料理とは無縁の生活を送っていたのだ。
身体に悪いのは分かっているから本当は自炊すべきなんだろうが。
「もしよろしければ暫く私がお夕飯準備しますよ? 一人分も二人分も作る手間は変わりませんし、冬夜さんには出掛ける時に付き添って貰うっていう恩もあります」
「そう言って貰えるならお願いしようかな」
「はい♡」
こんな可愛い子に料理を毎日作って貰えるなんて夢のようなことだが、柊の誤解がどんどん深まっていくことが心配だ……。
「じゃあ時間も時間だし俺はそろそろ帰ろうかな」
「えっと……ちょっと待ってください。その前に昨日みたいにギュってしてくれませんか?」
そう言うと、藤宮さんはベッドの縁に腰掛ける。
「一人になると思うと昨日のことを思い出してしまって……怖くなってきました」
「そういうことか……分かったよ」
俺もベッドに腰掛け、隣の藤宮さんを優しく抱きしめる。
すると、藤宮さんは俺の胸に顔を埋めてきた。
「冬夜さんの匂いがして凄く安心します。ハグっていいですね。大好きです」
「俺も悪い感じはしないかな」
俺は口ではそういいつつも、藤宮さんの髪から漂ってくるシャンプーの爽やかな香りや女の子特有の甘やかな香りにあてられて、ドキドキとしていた。
それに密着しているせいで、藤宮さんの大きくて柔らかな胸が俺の胸に当たってしまっている。
「藤宮さん、ちょっと眠たくなってきてるんじゃないか?」
「はい、そうかも知れません」
俺は藤宮さんの腰へと手を回して少し担いでベッドに寝かせる。
「冬夜さん、私が寝るまで添い寝しててくれますか?」
「ああ、分かったよ」
何だか昨日と全く同じ流れだなと思いながら俺は答える。
藤宮さんが目を閉じて小さな寝息をたてているところを見ていると、俺も段々と意識が途切れてくるのを感じた。
◇
――ちゅっ……
唇に柔らかな感触を感じる。
何度も何度も柔らかなものが押し付けられる。
――これはキスだよな!?
目を開けると暗がりの中で笑顔の藤宮さんがいた。
「藤宮さん、何してるんだ?」
「えっと……上書きしています」
――上書きって、昨日「私の汚い初体験、上書きしてくれませんか?」って言ってたやつだよな……
「もしかして、昨日も俺上書きしてた?」
「はい、しっかり最後まで上書きして頂きました」
――最後までって何だ? ヤったってことか!?
「そうか、無意識にヤってしまってたんだな……でももう上書きは終わりだろ?」
「いいえ……今回四人にされましたから、あと三回は上書きして頂きたいです。まだ昨日のこと、私の中で忘れられていません。わがままかも知れませんが、聞いてくれませんか?」
昨日意識が無い中でしてしまったのは何とか自分の中でも許容できるが、これからはどうだ。
すると、藤宮さんは俺の手を取り、自分の胸を掴ませる。
「冬夜さん、私こんなにドキドキしています。エッチなことして落ち着かせてくれないと眠れないです」
「……分かったよ。後悔しないな?」
「はい」
藤宮さんの嫌な記憶を消し去ってあげたいという気持ちと、据え膳食わぬは男の恥という思いから俺は藤宮さんとすることにした。
そして、お互いの服を脱がせ合い、俺は藤宮さんに覆い被さった。
◇
「冬夜さん、気持ちよかったです。ありがとうございました」
「俺初めてみたいなものだったからちゃんとできたか不安だけどな」
「大丈夫ですよ。それよりやっぱり冬夜さんのことが私好きみたいです。こんなタイミングで言うのもどうかと思うんですけど、お付き合いして頂けませんか?」
突然の藤宮さんからの告白に内心ドキドキとするが、すぐに柊のことが頭によぎる。
「……俺好きな子がいるんだ。エッチまでしておきながら、ごめん」
「そうだったんですね。冬夜さんが好きな方なら素敵な方なんだと思います。冬夜さんがその方とお付き合いするまででいいですから、私にも構って頂けますか?」
「ああ、これからも仲良くして欲しい」
「はい、よろしくお願いします」
俺は今まで柊のことしか頭になかったが、この二日間で藤宮さんとエッチまでして情が湧いてきたのか、どちらが好きとは言えなくなっていた。
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