第4話 恋人同士みたいな

 一般的な高校であれば始業式の日は午前中だけで終わることも多いと思うが、上新高校は午後も授業がある。

 俺は昼休みの騒動で授業に集中できず、気づけば放課後を迎えていた。


「冬夜、じゃあ俺バイトがあるから先帰るわ」

「ああ」


 そう言うと、手越はそそくさと帰ってしまった。


「樺恋、昨日危ない目に逢ったんなら、帰りは太一に送って貰いなさいよ? じゃあ私は用事があるから帰るわね」

「はい、わかりました」


 柊もいなくなってしまい、俺と藤宮さんだけが残される。


「えっと……柊も言ってたけど、昨日あんなことがあったばかりだし、家まで一緒に帰ろうか?」

「はい、ありがとうございます♡」


 藤宮さんはただ俺と一緒に帰るというだけで、本当に嬉しそうな顔をしている。

 ただでさえ可愛い容姿で、そんな顔を向けられると何と言うか来るものがある。


――ああ、柊にこんな顔されてみたいな……


「……冬夜さん、皆に色々言ってしまってる私が言うのも何ですけど、今の時間に一緒に帰って大丈夫でしょうか? 今朝は登校時間ギリギリでほとんど他の生徒に見られませんでしたけど、この時間は他の生徒も多いと思います。男女で帰っていると色々推測されてしまうかもしれません」

「構わないよ。迷惑じゃなければ暫く藤宮さんが外出する時は付き添うつもりだし。いちいち周りの目を気にしてたらキリがない」


 正直なところ柊にどう思われるだけが大事で、他はどうでもいいというところがある。


「ありがとうございます。じゃあ帰りましょうか」

「ああ」


 学校を出て長い長い坂道を二人並んで下って行く。

 数日前は満開だった桜が早くも散り始めていた。


 朝は始業式に間に合うことだけを考えていて全く意識していなかったが、異性と登下校をするのはこれが初めてだ。


「私、異性の方と登下校するのは初めてなので新鮮な気持ちです。その相手が冬夜さんで嬉しいです」

「同じこと考えてたんだが、俺も初めてなんだ。藤宮さんは今まで付き合った相手とかいなかったのか?」


 俺は学校では柊が可愛いと思っているが、藤宮さんはジャンルが違えど、柊に負けず劣らず可愛いと言える。

 高校に入る前から人気は相当高かっただろうと思う。


「いなかったですね。実は私今回のようなこと、初めてじゃないんです」

「今回って昨日のこと?」

「はい、中学の頃にも大人の男の人に無理やりされそうになって。その時は何とか自力で逃げ出せたんですけどね。それから男の人に対して苦手意識が出てしまって。告白してくれる人もいましたけど全て断っていました」


 可愛いのもいいことばかりじゃないんだなと感じる。

 藤宮さんは一見気が弱そうに見えるところもあるし、悪い奴らはそこを狙ってくるんだろう。


「そっか、嫌なこと思い出させて悪かったな。さっきも言ったけど、同じようなことが起きないように俺が暫く付き添わせて貰うよ」

「冬夜さんは本当に優しいですね。そういうところを好きになったんだと思います」

「うん……ありがとう」


 俺は柊への気持ちがある以上、今はこれ以上答えられない。


「そういえば冬夜さんって普段家でどんなもの食べてるんですか?」

「料理ができなくてな、コンビニで買うか、スーパーで惣菜買うくらいだよ」

「それはよくないです。色々とお世話になっているお礼に今日は晩御飯ご馳走しますね。スーパー寄って帰って貰っていいですか?」

「ああ、ありがとう」


 一緒に帰って、スーパーに寄って、晩御飯も一緒となると同棲みたいだなと思ってしまう。

 スーパーでは俺は役に立たないので、藤宮さんの後ろをついていくだけ。

 そしてスーパーで買い物を終え、藤宮さんの部屋へと戻ってきた。


「冬夜さん、私お風呂に入りたいので、冬夜さんも部屋で入っていらしたらどうですか?」

「ああ、俺も帰ってたらすぐ入るタイプなんだ。入ってくるよ」

「じゃあ30分後に帰ってきてください」


 自宅に帰り、風呂に入って30分後きっかりに藤宮さんの部屋へと戻る。

 とりあえず部屋のインターホンを押してみるが、何故か音が鳴らない。

 壊れているんだろうか……。

 仕方ないのでドアを開けてみる。


 すると、目の前にはパンツだけは履いているものの、上は何も身につけていない藤宮さんがいた。

 自然と大きな果実とピンク色の二つの突起に目が引き寄せられる。


「うわあ! ごめん!!」


 俺は驚いてドアを閉める。

 暫くすると服を着た藤宮さんがドアを開けて現れた。


「すみません、まだ30分経っていないかと思っていました。それに鍵を閉めていなかったですね。すみません……」

「いや、何というか見てしまってごめん……」

「いいんですよ。冬夜さんになら」


 そう言われても異性のあんな姿を見たのは初めてで、動揺してしまう。


「じゃあ入ってください。私料理始めるので冬夜さんはテレビでも見ておいてください。動画配信サービスも入っているので自由に見て貰っていいですよ」

「ああ、ありがとう」


 二人掛けのソファに腰掛けテレビを見ていると、右手に料理をしている藤宮さんが見える。

 二人とも部屋着姿で、これって恋人同士がするようなことなのではと今更ながら感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る