第3話 この気持ちは隠せません
8時25分。
俺と藤宮さんは無事に校門を潜り抜けた。
まずは昇降口付近にある掲示板で新しいクラスを確認する。
「冬夜さん、私4組でした」
「ああ、俺も4組だったよ」
4組は超難関国公立文系を目指すクラスだ。
実はこの私立上新高校は偏差値70を超える地元でもトップレベルの高校なのだ。
左手の藤宮さんを見ると、両手を胸に添えて、小さくガッツポーズをしている。
――何だこの子、可愛い……
「冬夜さん、それじゃあ体育館に急ぎましょう」
「ああ」
体育館ではクラス毎、男女に分かれて整列していた。
俺達もそれに並ぶ。
「やあ、冬夜。今年も同じクラスなんて奇遇だな」
「ああ、今年もよろしく頼む」
俺の前に並ぶこいつは
見た目スマートで女子にもモテてるみたいだが、高校に入って以来彼女ができた様子は無い。
「さっき藤宮さんと一緒に話しながら入って来てなかったか? お前、藤宮さんと面識ってあったっけ?」
「ああ、ちょっと色々あってな……」
昨日のことを赤裸々に話す訳にもいかず、濁しておく。
話の流れで後方の女子の列を見遣ると、藤宮さんがある女子と話していた。
この上新高校で彼女を知らない生徒はいない。
柊を有名たらしめているのは、他を圧倒する可愛さだ。
校則が緩いこともあって、綺麗な金色に染められたハーフツインの髪は艶めいている。
また、可愛らしい容姿と裏腹に、高校生とは思えないほどメリハリの効いたスタイルをしている。
そんな柊に俺は中学の頃から思いを寄せているのだが、未だその思いを伝えられていない。
「冬夜よかったな。今年は愛しの柊さんと同じクラスじゃないか」
「ああ」
この学校で唯一手越だけは俺が柊を好きなことを知っている。
他の奴に言うつもりは全く無いが、こいつならいいかと思えたのだ。
始業式がつつがなく終わり、教室へと向かう。
新学期は例に倣って、出席番号順だ。
すると、見事と言うか何と言うか、俺が三列目最後方、前に手越、右斜め前に柊、右手に藤宮さんという席順になっていた。
「樺恋とは去年に引き続きだけど、太一と同じクラスになるのは中学三年の時振りだよね。手越君は初めまして。よろしく」
「ああ、久し振りだな」
「柊さん、よろしく」
「手越さん初めまして。冬夜さんは学校でも隣になっちゃいましたね。嬉しいです」
「「ん? 学校でも隣?」」
手越と柊が揃って首を傾げる。
「昨日知ったんですけど、冬夜さんと私、お部屋が隣同士だったんです」
「へぇー? 太一、こんな可愛い子が隣の部屋じゃ覗きたくて仕方無いんじゃないの?」
柊は俺をからかってくるが、昨日は何なら家に上がってしまっている。
「私としては冬夜さんになら覗いて頂いても構いません……」
藤宮さんの衝撃の発言に手越と柊は一瞬黙ってしまう。
「樺恋、もしかして太一のこと好きだったりする……?」
「はい、まだ私の片思いですけど……」
まさか藤宮さんが皆の前で俺への気持ちを話すとは思わず、固まってしまう。
俺が柊を好きだと知っている手越も気まずそうだし、どうしていいか分からない。
「太一、よかったじゃん。私の親友泣かせないでよね。大事にしてあげて」
「ちょっと待ってくれ。俺と藤宮さんはまだ昨日知り合ったばかり……」
そう言いかけたところで担任が入ってきて、話せる雰囲気ではなくなってしまう。
その後の休み時間も一年の時の友人やらがやってきて、四人で話すことは無かった。
そして昼休み。
「冬夜さん、購買に何か買いに行きませんか? 私も冬夜さんも朝時間無くて何も準備できなかったですし」
「ああ、そうだな」
いってらっしゃいと、手越と柊に見送られる。
「藤宮さん、俺のことが好きだって皆に言ってたけど、昨日知り合ったばかりだぞ? 言って後から後悔しないか?」
「いえ、後悔はしません。私本気ですから」
藤宮さんは意志が固いようで、今の姿勢のまま行きそうだ。
――柊との関係がどんどん遠のいて行ってしまう……
そして、購買でパンや飲み物を買って教室へと戻り、四人で昼食を始めた。
「藤宮さん、そういえば何で冬夜が昼食の準備をできてないことを知ってたの?」
「えっと、それは……冬夜さんが昨日私の家にお泊まりしていたからです……」
「「ええーーー!!!」」
衝撃の発言に手越と柊が大声を上げる。
「いや、間違いでは無いんだが、止むに止まれぬ事情があったと言うか……」
「冬夜……俺より先に行ってしまったんだな……」
「樺恋……大事にして貰えたの?」
当然昨夜何かがあった程で話が進んでしまっている。
「はい。冬夜さんには優しくして頂きました。それもあってより好きになってしまったというか……」
「そっか、よかったねえ」
柊は藤宮さんの保護者のようにうんうんと頷きながら微笑んでいる。
「あの一応言っておくと、昨日藤宮さんが危ない目に遭ってて、俺がそれを偶然助けて家に招かれて優しくしただけだ……」
――これは間違って無いはずだ。
「そうなんです。家に帰っても震えている私を優しく抱きしめてくれて……」
「冬夜、やることやってるじゃないか」
俺が濁して話しても藤宮さんが全て赤裸々に話してしまう。
どうやっても誤魔化すことはできないようだ。
手越と柊から生暖かい目で見られながら、昼食の時間は過ぎて行くのだった。
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