第2話 上書きしてくれませんか?
「私の汚い初体験、上書きしてくれませんか?」
――上書きって何だ?
俺は言葉の意味するところは理解しつつも、頭が正常に働かないでいた。
「私、初めてだったんです。それがあんな男の人達に無理矢理されるだなんて考えてもいませんでした。今思い出しても怖くて、気持ち悪くて……」
「そうだよな。あんな場所で無理矢理は誰だって嫌だ」
暗くて見えにくいが、藤宮さんは泣いているのか、言葉を詰まらせながら話す。
「でも今日のうちに冬夜さんみたいな方に上書きして貰えるなら、少しはいい思い出に変えられるかもしれません。誰でもいいって訳ではないんです。助けてくれた冬夜さんだからこそ……」
「それって余計に藤宮さんを傷つけることになったりしないか? 俺とは会ったばかりだし、まだお互いよく知らない関係だ」
藤宮さんは先程のショックな出来事のせいで冷静な判断ができなくなっているんだろう。
「冬夜さんのことはまだ出会ったばかりですし、知らないことばかりなのは分かっています。でも知っていることもあります。知らない私を助けてくれた優しい人だってことは……」
「あの場面を見て助けない人なんていないぞ。俺は警察を呼んだって嘘ついただけだ」
「それで私が助かったのは事実です。冬夜さんが来てくれてなかったら、もっとひどい目に遭っていたのは間違いないです」
確かに止める者がいなければ更に行為はエスカレートしていただろう。
そこで俺は大事なことを思い出す。
「こんなこと聞いていいのかわからないけど、妊娠するようなことはされなかったのか?」
「されましたけど、幸い私生理が重くてピルを毎日飲んでるので妊娠することは無いと思います」
最悪の事態は逃れられたようで、俺はホッとする。
「話を戻しますが、私今日冬夜さんとエッチがしたいです。こんな犯されたばかりの女、汚いと思いますか?」
「いいや、そんなこと思わない。あれは避けようのないものだ。そんなことで藤宮さんが穢れたりなんかしない」
実際目の前のフリル裾のパジャマを着た藤宮さんは美しく、穢れとは無縁だった。
「いきなりエッチって言われても冬夜さんも困ると思うので、抱きしめてくれませんか? 安心したいです」
「それなら、分かったよ」
俺は藤宮さんが腰掛けるベッドに腰掛け、隣の藤宮さんを抱きしめる。
すると、藤宮さんもゆっくり俺を抱きしめ返してきた。
「冬夜さん、何だか凄く落ち着きます。今日は最悪なことがありましたけど、最後にこんな気持ちになれてよかったです」
「よかった。もう眠そうだし、寝たらどうだ?」
あんなことがあった訳だし、疲れているに違いないと思い、俺は藤宮さんをベッドに寝かせる。
「冬夜さん、私が寝るまで添い寝しててくださいね?」
「ああ、分かったよ」
俺は眠って行く藤宮さんを眺めつつ、自分も意識が途切れていくのを感じていた。
◇
――ちゅっ……
唇に柔らかな感触を感じる。
――これはキスか!?
目を開けると目の前には可愛らしい女の子が目を閉じている。
眠気で頭が働いておらず、一瞬誰だか分からなくなる。
――ああ、昨日助けた藤宮さんだ。
すると、藤宮さんが俺の手を自分の胸へと持っていく。
男の俺の手でも収まりきらないほどの大きさで、とても柔らかい。
更に藤宮さんは俺のズボンとパンツを脱がし、下へと手を伸ばしてくる。
その時俺はもう臨戦態勢だった。
「……冬夜さん、私の上に乗って好きにしてください」
俺は言われた通りに藤宮さんに覆い被さって抱きついてしまう。
――これは夢だよな?
ただ、この夢は物凄く気持ちよかった。
◇
「冬夜さん、起きてください! 遅刻です!」
女の子の切羽詰まった声で突然起こされた。
一瞬状況が把握できず混乱する。
「藤宮さんか。ごめん、俺昨日帰らずに寝てしまってたな」
「そんなことはいいんです。新学期早々遅刻しますよ!」
時計を見ると8時。
始業時間は8時半だ。
それに今日は新学期なので8時半までに体育館に向かわなくてはならない。
「ヤバいな。俺着替えてくるから先行っててくれ」
「いえ、待ってますんで早めにお願いします」
俺は一旦隣の自分の部屋に戻り、制服に着替え、顔を洗って歯を磨く。
「藤宮さん、お待たせ。じゃあ走ろうか」
「じゃないと間に合いませんもんね。分かりました」
俺達は学校へと向かう長い長い坂道を駆け抜けていく。
そんな時、昨日の夢か現かはっきりしない出来事を思い出した。
「なあ、藤宮さん。夜中に俺、藤宮さんに何かしたか? もしくは藤宮さんが俺に何かしたとか……」
「えへへ……秘密です♡」
その時見せた藤宮さんの笑顔は輝いていて、不覚にも心惹かれてしまう。
「藤宮さんってそんな顔で笑うんだな」
「はい、好きな人の前ではこんな顔になってしまうのかも知れません♡」
――俺一応好きな子いるんだけど、困ったことになったな。
と思いつつ、こんな可愛い子に好かれて悪い気は全くしていなかった。
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