男性用公衆トイレで好きな子の親友を拾いました

碧井栞

第1話 男性用公衆トイレ

 俺――冬夜太一とうやたいちは焦っていた。

 そう、漏れそうなのだ。


 春休みの最終日、俺は友人達と派手に飲み食いをした帰りで、家まで膀胱が耐えてくれそうになかった。

 そこで普段は使うことのない、俺が住むアパート横の公園の公衆トイレへ向かうことにした。


 すると、男性用公衆トイレから女性の悲鳴のようなものが聞こえてくる。


「きゃっ! 痛いっっ!」

「いやあ! 離して!!」


 これは間違いなく厄介ごとだろう。

 ただ、見て見ぬ振りをする訳にもいかない。


 意を決してトイレの中に飛び込むことにする。

 入ってみると四人の大学生くらいと見える男達が一人の女の子を床に寝かせて囲んでいた。


 ――痴話喧嘩か何かかと思ってたけど、強姦か?


 この時点で武器を持ってくるんだったと後悔する。


「お前誰だ!? 今取り込み中だから出て行かねぇと、痛い目遭わすぞ」


 突然入って来た俺に驚いて出て行ってくれるかと淡い期待を抱いていたが、そうもいかないらしい。

 そこでスマホを取り出す。


「さっき入ってくる前に警察に連絡した! あと2、3分もすれば警官がやってくるはずだ」


 実際にはまだ警察には連絡していなくて、はったりだったのだが、相手には効くだろう。


「ちっ! お前ら逃げるぞ!! 捕まってたまるか」


 そう言うと、男達は公園に停めてあったバイクに乗って走り去って行った。


 改めて女の子を見やると上着もスカートもはだけており、パンツは近くに脱ぎ捨てられている。

 こんな暗いトイレの中で男四人に犯されて、相当怖かっただろう。

 今も顔を伏せつつ、震えている。


「大丈夫? 怪我はしてない?」

「………………」


 まだショックから抜け出せていないのか、女の子からは返答が帰ってこない。

 ひとまず衣服を整えてあげて、上から俺のジャケットをかけてあげた。


「……ありがとうございます。助けて頂いたことも。後は自分で帰れますので、ジャケットはお返しします」


 そう言いつつも、彼女の目尻は涙で濡れたままだ。


「さっきみたいなことがあった後に一人になんてできない。それに早めに警察に行った方がいいと思うし、ついてくよ」

「いいんですか? ありがとうございます。助かります」


 それから俺達は近所にある交番に向かった。

 ここでようやく俺はトイレを借りることができた。


 交番では被害届を提出したところ、近隣のパトロールを強化して貰えることになった。

 そして交番を出て、二人並んで歩き出す。


「それで君の家ってどこなんだ?」

「えっと、実は公園の隣のアパートなんです」

「ホントか!? 俺もそこのアパートだぞ」


 今まで他の住人と顔を合わせたことはあったが、彼女と会ったことは無かったはずだ。


「俺201号室なんだけど、君は?」

「私は202号室です。お隣さんだったんですね! あの、よかったら今日のお礼にお茶でも飲んでいかれませんか?」


 断る理由も無かったし、まだ彼女自身不安な部分もあるだろうと思い、俺は承諾した。


 少し緊張しつつ、彼女の部屋へと入る。

 うちのアパートは築40年のボロ屋だが、彼女の部屋はネイビーを基調としており、家具はアンティーク調のもので揃えられていて、俺の部屋とは大違いだった。


「あの、そういえばお名前お聞きしてなかったですよね? 私は藤宮樺恋ふじみやかれんです」

「冬夜太一だ。藤宮さんはどこの高校なんだ?」

「上新高校の新二年生です」

「俺も上新高校の新二年生だぞ」


 去年一年間同じ学年だったのにも関わらず、お互い気づかないなんてな。

 改めて見ると、藤宮さんは黒髪ボブで目鼻立ちもはっきりしていて、スタイルもいい。

 今まで視界に入っていなかったのがおかしいくらいだ。


「お互い家でも学校でも近くにいたのに全く気付いてなかったなんて、変な感じですね。でもこれからはお知り合いです。よろしくお願いしますね」

「ああ、こちらこそよろしく。あんなことがあったんだし、とりあえず風呂入ったらどうだ? 俺は帰るし」

「ご迷惑じゃなければまだ居て頂きたいです。すぐにお風呂済ませますので」


 そう言うと藤宮さんは風呂に入って行った。

 お隣さんで同級生の可愛い女の子が風呂に入っているのを待つのはどうも落ち着かなかったが、スマホを弄りながら時間を潰す。


 すると、間もなくして藤宮さんが風呂から上がってきた。

 俺に気を使って早めに出て来てくれたのだろう。


「冬夜さんお待たせしました。明日から学校始まるのに遅い時間までお引き止めしてしまってすみません」

「いや、いいよ。俺の家隣だし。それにあんなことがあった後だからな」


 テーブルの前に対角で藤宮さんと座っているが、シャンプーの爽やかな香りと女の子特有の甘やかな香りが漂ってくる。


「あの、ちょっと照明落としてもいいですか?」

「んん? 別に構わないけど」


 そう言うと、藤宮さんは天井のライトを消して間接照明に切り替えた。

 するとそのままベッドの方に向かって行き、腰を下ろした。


「冬夜さん、もし嫌だったら言ってくださいね?」

「ああ」

「私の汚い初体験、上書きしてくれませんか?」


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第一話お読み頂きありがとうございます。

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