第7話
「さすがに寒いね。」
もう十一月になったというのに。
「そーですよー。
こんな寒い日に外でお弁当食べるって、
せんぱいって、バカじゃないんですかー?」
どうしてこういう言い方しかできないんだろう。
このキャラクター、絶対に失敗だったと思う。
そもそも、ちゃんと、キャラができてもいない。
でも、いまさら、この新しい仮面を外せない。
「いやぁ、
九重さんが、来るかなって。」
「!」
なんで。
なんでそんなこと、言うの。
「わ、わたしが来たいわけないじゃないですかぁー。
ぼっちな先輩をからかいにきてるだけなんですからー。」
頬が、赤くなる。
寒く、なくなってしまう。
「それとも先輩、ひょっとしてぇ、
わ、わたしを好きになっちゃいましたぁ?」
「あはは、それはない。」
渾身の告白もどきは、あっさりとスルーされた。
死にたい。埋まりたい。
「それは、安心していいよ?」
恨めしい。
この距離感が。
好きに、させたい。
わたしを。先輩が。
でも。
そんなこと、どう、やって。
*
「容姿は、そうでもないな。」
ばっさり。
それは、そう思うけど。
残念ながら。
「公になったら、なかなか大変だぞ?」
……確かに。
迷惑を、かけたくはない。
それくらいは、わかってるから。
「遥が好きだってこと、沢渡は知ってるのか?」
さわたり。
そんな風に、呼んだこと、ない。
「……知らないよ。
知ってっこ、ない。」
距離を置くためのキャラクターだから。
素直じゃない、心にもないことしか言えない。
失敗した。
ほんとうに、ほんっとぅに失敗した。
もっと素直で可愛いキャラクターを選べばよかった。
キャラメイクを一からやりなおしたい。
ああっっ!!
「ど、ど、どうした?」
ベットのマットレスを転げまわっても、
せいぜい一回転にしかならない。
当たり前だ。
「そうか。
まぁ、遥が幸せそうで良かった。」
幸せ。
幸せそうなのか、わたし。
「……うん。」
ちっとも、気づいてくれない人なのに。
*
好きなのに。
好きだけど。
「せんぱいはー、どうしてこう、
冴えない顔してるんですかぁ?」
この距離感でないと、
この話し方でないと、話せなくなっている。
言葉が、出てこなくなってしまってる。
苦しくて。
内側から、噴き出してしまいそうで。
「あはは。
生まれつきだからね。どうにも。」
「そぉですかぁ?
なんでこんな、前髪、長いんですかぁ?」
上目遣い。
できてるかどうか、ちっともわからない。
「顔、悪いからね。
人に見せたら、迷惑なだけ。」
気にしないのに。
三白眼でも、ケロイド状でも。
声は、変わらないで欲しいけど。
「そんなことだと、
ほんっとーに一生童貞ですよぉ?」
「あー、そうかもしれないね。
一回くらい、風俗でやってみるかもしれないけど。」
そんなんだったら、こっちに欲しいのに。
こう
っ!?
「ど、どうしたの?」
あ、あたまのなかに、
浮かんでしまったものが、
あ、あまりにも、鮮明で。
「な、な、なんでもないんですぅーっ!
せんぱいがデリカシーのないこと言うからですよっ!!」
「そ、そうかもしれないね。」
「かもじゃないですっ!」
「ご、ごめんなさい。」
「そ、そうですよぉー。
せんぱいはこんなんだからぼっちなんですよ?
顔がダメなんだったら、せめて清潔感くらいないとー。」
恥ずかしいから。
恥ずかしいからって。
「……そう、だねぇ。」
ぁっ。
落ち込ませて、しまっちゃってる。
そうじゃ、ないのにっ。
言えない。
キャラを外したら、なにも、言えない。
「ほんと、おばかさんですねー。
そんなだから、女性に嫌われるんですよー?」
嫌だ。
このキャラクター、ほんとに嫌だ。
*
進路相談。
なにも考えていないことが、バレてしまう場。
進路。
高校は、なにも考えることはなかった。
清美ちゃんと同じ高校に入ることだけを考えていれば良かった。
大学も、そのつもりだった。
たぶん、清美ちゃんは、わたしに気を使ってくれる。
わたしに、あわせてくれる。本当に申し訳ないけれど。
でも。
「せんぱいはぁ、進路、どうするんですかー?」
「あー、進路。
進路ね。うん。」
そういって、先輩が告げた大学の名前は。
「……せんぱいって、
意外に成績、よかったんですねー。」
「あ、まぁね。
これくらいしかないから。」
まずい。
わたしが、届くところじゃ、ない。
いままで近かった、
傍にいられるのが当たり前だった先輩との距離が、
急に、遠く感じて。
「でもぉ、頭がよくても、
一生童貞ってひと、いるじゃないですかぁ。」
なんでこんな風にしか喋れないんだ、このキャラは。
そんなもの、わたしが導いてあげるだけで。
っ。
また。
勝手に、考えた妄想だけで、
顔が、赤くなるなんて。
「まぁ、いるよね。
僕もそうなるんじゃないかな。」
見られてない。
よかった。哀しい。
「で、でっしょー?
ありがたいとおもってくださいねー?」
「あはは、はいはい。」
少し、悔しくて。
ちっとも振り向いてくれないことが。
「ぜんぜんありがたみをかんじませんけどー?」
「そう?
こんなに綺麗な方とお話ができるのは、
ありがたいと思ってますよ。」
「っ!」
やばい。
なんで。どうして。
「ど、どうしたの?」
「先輩の鈍感っ! 変態っ! 不貞者っ!
ばかばかばかばかっ!!!」
変態なのは、わたしのほうだ。
もう、顔が、みれない。
ただ、優しい声が、
耳に、届いただけのことで。
こんなに、こんなに。
穢れてる。
わたし、穢れきってる。
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