第14話 七元徳の護り手 【節制】【希望】
会話には加わらずに沈黙を貫いている守護天使最後の一人。
彼女の名はヴェルレマリーという。
ヴェルレマリーは聖騎士然とした格好をした守護天使のリーダー格だ。
いや背に翼を生やしているあたり、聖騎士というよりは
ヴェルレマリーが、ざわつく仲間の守護天使たちを眺め、溜め息をついた。
苦々しい顔で言う。
「……お前たち、少しは静粛にしろ。ルシフェル様の御前だ。
第六天マコンを護りしヴェルレマリーは、節制を司る守護天使である。
純白に光り輝く胸当てを身に付け、普段は腰に履いている天の宝剣『
ヴェルレマリーに諌められた守護天使たちがハッとする。
ルシフェルへの拝謁の場であったことを思い出し、慌てて口を
ヴェルレマリーは鎮まった皆をやれやれと見届けてから、ルシフェルへと向き直る。
「ヴェルレマリーにございます。……ああルシフェル様。天に居する我らすべてを導きし
ルシフェルは首を捻りながら思う。
なんか処罰を求められている?
でも不敬とか処断とか言われても、さっぱり意味がわからない。
というかもしかして守護天使のみんなに、今しがたヒソヒソ話で盛り上がっていたことを怒っているとでも思われているのだろうか。
だとしたらひどい誤解だ。
だってルシフェルはみんな仲良さそうでいいなーとか考えていたのだから。
でもその気持ちをどう伝えたものか。
ルシフェルはキョドった。
守護天使たちを相手に上手く話せる自信が微塵もない。
ルシフェルは助けを求めるように、いつの間にか玉座脇に戻ってきていたアイラリンドを見た。
◇
……見つめ合う。
しばらく二人が無言でそうしていると、やがてアイラリンドの方がコクリと頷いた。
ルシフェルから視線を外し、こほんと咳払いをする。
壇上からヴェルレマリーに声をかける。
「ヴェルレマリー様。どうぞお顔をおあげ下さいませ」
地に平伏していたヴェルレマリーが顔をあげた。
アイラリンドは粛々とルシフェルの言いたいことを――自分なりの解釈で――代弁する。
「ルシフェル様はこう仰られております。『ヴェルレマリーに咎はない。いや守護天使の誰にも咎などないのだ。私は理解している。お前たちが浮かれて少しばかり羽目を外してしまうのは、ひとえに我が帰還を嬉しむが故。ならばお前たちを
ルシフェルは白目を剥いた。
そんなこと考えてなかった。
「……ああ、なんという
寛大な言葉を伝え聞いたヴェルレマリーの瞳から、涙が溢れ出た。
続いて守護天使たち全てが、感極まった表情でルシフェルを見上げる。
皆が感動に打ち震えていた。
そんな守護天使たちを代表して、ヴェルレマリーが声を震わせながら話す。
「……遥けきかな、遥けきかな……。いと高き天に座する我らが熾天使長ルシフェル様。その身に大いなる慈しみを宿す天の化身。まさしく貴方様こそが神の愛。この御前にて改めて誓い奉る。この私、守護天使ヴェルレマリーは、粉骨砕身の献身にて、我が身果てるまで御身にお仕え致しますことを」
守護天使たちが一斉に頭を下げた。
声を重ね合わせて誓う。
「我ら守護天使一同の忠誠を、偉大なる貴方様に!」
◇
ルシフェルは並んで拝礼してから、跪き頭を垂れてくる守護天使を眺める。
「は、ははは……」
思わず乾いた笑いがこぼれた。
なんかもう、どうにでもなれという心境である。
各々に七元徳を司る守護天使たち。
そのすべてが三対六翼の翼を有する熾天使たちだ。
アイラリンドから各位についての紹介を受けながら、ふとルシフェルは思った。
疑問を口にする。
「……あれ? 七元徳って言うけど、守護天使のみんなって計6人しかいないよね? ひとり足りなくない?」
するとアイラリンドは微笑みながら言った。
「ふふふ。七元徳、最後のひとつ『希望』を司る御方はいま、私の目の前に
キョトンとするルシフェルに、アイラリンドが告げる。
「ああ、ルシフェル様。貴方様こそ私ども天使すべてにとっての希望。私どもは何があろうとも貴方様にお仕えし続けます」
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