第7話 超天空城へ
空飛ぶクジラの大群を光線で薙ぎ払ったジズは、そのまま空を眺め続ける。
しばらくそうして、敵の増援がないことを確認してから緊張を解いた。
ジズは翼で隠して護っていたルシフェルを解放する。
ジズの全身が淡く光を帯びた。
かと思うと巨大な体躯がみるみるうちに縮んでいき、一人の少女が現れた。
◇
ルシフェルは目を丸くしながら現れた少女を観察する。
人の形態をとったジズは、小柄なルシフェルよりなお小さい。
身長140センチないくらいだ。
少女というより幼女と表現したほうがしっくりくるほどで、巨大な空獣姿とのギャップがすごい。
幼女になったジズのシルエットは標準的な人間の形とは少々異なっていた。
両腕が虹色に輝く翼と一体化していてお尻付近には鳥類の尾が生えている。
その姿は見る者にハーピーとかハルピュイアとか言われる半人半鳥の怪物を想起させるかもしれない。
けれどもジズに怪物的な醜さは毛ほどもなく、反対に実に愛らしい。
空獣姿の羽毛色と同様に淡い金色をした美しい髪は、毛先に向かってグラデーションが掛かっていて先端部にいくほど翠色が勝ってくる。
◇
ジズがくりっとして愛らしい翡翠色の瞳をルシフェルに向けた。
その目は涙で潤んでいる。
「うわぁぁん! ルシフェル様ぁ! お帰りなさい! お帰りなさぁい!」
ジズがルシフェルに飛びついた。
抱き止めた際の衝撃で、ルシフェルは二、三歩よろめく。
「うぇぇぇん、嬉しいのぉ! ジズ、ずっと待ってたの。何千年もずっと……。でもやっと帰ってきてくれた。ルシフェル様、お帰りなさい!」
「……えっと。……た、ただいま?」
訳もわからぬまま返事をすると、泣きじゃくっていたジズが顔を上げた。
抱きついたまま、上目遣いにルシフェルを見上げる。
そして幸せそうに微笑んだ。
「えへへ」
つられてルシフェルも微笑み返す。
ここまで真っ直ぐに好意を表されているのだ。
状況は何ひとつ理解できないものの、ルシフェルとて悪い気はしない。
ルシフェルがジズの頭に手をのせて、柔らかな髪をさわさわと撫で付ける。
ジズは幸福そうに目を細めた。
そうしたままルシフェルは話を切り出す。
「それはそうと、キミ、えっと、名前は――」
「ジズはジズだよ!」
「そっか。じゃあジズ、ちょっと話を聞かせてくれない? あ、俺はルシフェル……って、知ってるんだよな? さっきから何度も俺の名前を呼んでいたし」
ルシフェルは質問した。
ここは何処で自分は何者なのか。
なぜジズは自分を知っているのか。
たしかにルシフェルは日本で生まれ育ち、冴えない営業マンをしていた。
それがどうして、このような見知らぬ世界でまるで天使のような姿に変異しているのか。
矢継ぎ早に質問すると、ジズは目を回した。
「あわわ……。えっと、えっと……。ここは人界にある大草原で、ルシフェル様はルシフェル様で……」
ジズはつっかえながらも、なんとか質問に答えようとしている。
しかしその回答は的外れで要領を得ない。
「んっと、ルシフェル様はね、ずっと行方不明になっちゃってたの。……そうそう。あれだよ、昔、おっきな戦争があったでしょ? あのときキリストのゴミ野郎が天使のみんなを裏切って、そしたら悪魔と手を組んだ人間たちがいっぱい攻めてきて……。そのときにルシフェル様は行方不明になったんだ」
「行方不明……?」
「うん。リンドは『ルシフェル様は堕天してしまわれた』って言ってた」
ルシフェルは首を捻った。
話を聞いてみたは良いものの、ますます訳が分からなくなってきた。
「……堕天? それに大きな戦争? それってどういう――」
「ご、ごめんなさい! ジズはあんまり頭が良くないから、詳しいこと分かんない……」
ジズがしょぼんとする。
けれどもすぐに何か思い付いたようで、ぱぁっと表情を明るくさせた。
「あっそうだ! ジズじゃなくてリンドに聞けば良いの! リンドはジズと違って頭が良いから!」
「リンド?」
「うん! リンドもね、ずっとルシフェル様がお帰りになるのを待っていたから、すっごく喜ぶと思う!」
ルシフェルに抱きついたままだったジズは、パッと腕を解いてパタパタと飛び、距離を取る。
淡い光を全身に纏ったかと思うと、巨大化して空獣の姿へと戻った。
思念を伝えてくる。
《さぁ、ルシフェル様! わたしに乗って。はやくリンドに――アイラリンド超天空城に会いに行くの!》
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