第9話 はぁ?
訓練後、食事を摂って――兵士に案内された――就寝。
中々充実した訓練だった。
そして翌朝、朝食を取った所で大会の開かれる街へと移動する事になる。
目的の街までは半日ほどの距離があるらしく、馬車に乗って行くとの事だったが――
「悪いけど、俺は走らせて貰う」
――半日も馬車でじっとしているなど時間の無駄だ。
だから走る。
まあ瞑想をすると言う手もあるが、効率が良くないので、走って足腰と体力を鍛えた方が有用だ。
「タゴサク様は、紋章よりも肉体の鍛錬を優先されている様ですな」
「貴方がそうしたいと言うのでしたら構いませんが、我が家のスレイプニルはかなり足が速いですよ?」
超大型の馬車。
その先には、二頭の黒馬が繋がれていた。
まあ正確には馬ではない。
6本脚の、スレイプニルと呼ばれる魔物だそうだ。
護衛の兵士達が騎乗しているのも全てこれである。
「足と体力には自信があるから問題ない」
エロカワにそう答え、俺は軽く準備運動をする。
服装は、フジさんが用意してくれた、華美ではない動きやすい物を身に着けていた。
この世界に来た時に着ていた服は、アホウの奥義でかなりボロボロになってしまっていたので、その代わりだ。
因みに、財布――しばらく分の生活費用を神様から貰っている――なんかは無事だ。
インベントリの中に入っていたからな。
ああ、インベントリってのは色々な物を収納できる俺だけの謎空間だ。
言語能力と同じでこれも転生時の基本チートなので、希望と関係なく貰えている。
「分かりました。きつそうなら直ぐにおっしゃってくださいね」
エロカワが俺の希望を了承し、馬車に乗り込んだ。
それにフジさん率いる、侍女達数名が続く。
全員が乗り終え、馬車の扉が閉じると――
「はっ……スレイプニルはCランク相当の脚力を持つ魔物だぞ。Eランク如きが走って付いて来れると本気で思ってるのか?」
「どうせお嬢様に良い所を見せたかったんだろ」
――兵士達がいちゃもんを付けて来た。
どうやら俺が気に入らない様だ。
まあどこの馬の骨とも分からん、低ランクバトラーだからな。
ある程度は仕方がない。
「だいたい、こんな雑魚を代理人にするなんてお嬢様は何を考えてらっしゃるんだ」
「全くだ。こんな奴を出す位なら、俺達の中から選んでくれればいいのに」
が、だからといって言いたい放題言わせてやる謂れはない。
軽く挑発してやる。
「俺が選ばれたのは、Dランクの使えない雑魚共よりマシだからに決まってるだろ?」
移送につき従う、護衛の兵士は全部で8人。
当然全員がバトラーで、20歳前後程度と思われる若輩の6人がDランク。
少し年配の二人はCランクとなっている。
「なんだと貴様!我らに喧嘩を売るつもりか!」
俺の悪口を堂々と口にしていたのは、Dランクの奴らだ。
その口ぶりから、自分達ではなくEランクである俺が代理人に選ばれたのが気に入らないと言うのがよく分かる。
……まったく、下らない。
「売ったんじゃねぇ。買ったんだよ。ノータリン共」
「なんだと!!」
「調子に乗るな!Eランク如きが!!」
「お嬢様が雇った者でなければ、貴様など今ここで叩きのめしてやったのに!!」
俺の言葉に、若輩の兵士達が怒りの形相で怒鳴り声を上げる。
いくらなんんでも短気すぎだろ、こいつら。
そんなに怒鳴ったら、態々馬車のドアが閉まるのを待ってエロカワに聞こえない様にした意味がなくなるぞ?
「そこまでにしろ!」
それまで静観していた、年配の兵士の一人が一喝する。
「しかし隊長……」
どうやら男は、この護衛の隊長の様だ。
「我々の仕事はお嬢様を安全に護送する事だ。余計なトラブルを起こすな。分かったな」
「……はい」
「分かりました」
「申し訳ありません」
隊長の言葉に、若い奴らは渋々従う。
反省は一切してないだろう事は、顔を見れば一目瞭然だ。
だが俺も無意味に揉める気はないので、あいつらが黙るのならここで矛を――
とか思ったのだが、隊長と呼ばれる男の次の一言にカチンときた。
「君も、我々を挑発する様な真似は止めたまえ。怪我をしたくなければ」
「はぁ?」
何様のつもりだ、こいつ?
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