第8話 訓練
「瞑想は今一だな」
魔宝玉を吸収してEへとランクアップした俺は、その後数時間程瞑想を試してみた。
ハッキリ言ってその効果は今一だ。
まあ分かってはいた事ではあるが、魔宝玉とは天と地ほどの差がある。
「瞑想する暇があったら、体を鍛えた方が良さそうだな。これは」
瞑想時の吸収率は、平均一割程度と言われている。
が、それはあくまでも一般的なバトラーの話だ。
中には二割、もしくは三割の吸収率を持つ者もいる。
――そういう奴らを、世間一般では天才と呼ぶ。
吸収率が二倍なら、紋章の成長速度が二倍に。
三倍なら、成長速度も三倍になる。
まあそりゃ天才扱いされるわな。
え?
転生したんだから、お前もチートレベルの吸収率が貰えたんじゃないか?
残念ながら、俺の貰ったチートは毒無効だけだ。
そのため俺の吸収率は一般的なレベルでしかない――神様からそう言われている――ので、こと紋章の成長に置いては凡庸と言わざる得ない。
「紋章の方は、まあ魔宝玉――というか、魔石だよりでいいだろう」
魔石。
それは魔宝玉の原材料だ。
――この世界には魔物がおり、その心臓には魔石と呼ばれるマナの結晶が宿っている。
本来これは猛毒を含んでいるため、そのままの状態ではとても吸収する事は出来ない。
だから錬金術師によって解毒、濃縮され、吸収可能な魔宝玉へと錬成されるのだ。
だが、俺には毒に対する完全耐性があった。
つまり、宝玉に精製する過程は不要という事だ。
因みに、魔宝玉に比べれば、魔石はかなりお手ごろな価格になっていた。
くっそ高いのは、精製できる錬金術師の数が少ない事に起因している。
だったらさっき貰った魔宝玉は売り飛ばして、魔石を買った方が良かったんじゃないかって?
入手ルートがないんだよ。
魔石類は全部、錬金術師に繋がる特殊なルートで全部買い取られちまうからな。
まあその辺りはおいおい、なんとか開拓していくとする。
「取り敢えず、訓練するか」
紋章の強化は魔石頼り。
なら、俺自身は体を鍛える以外ない。
地球にいた当時には出来なかった訓練でも、早速試してみるとしよう。
「そのための場所に移動せんとな。此処ではできんし」
室内はかなり広いが、流石にこの場で訓練をするのは無理がある。
そう思い、俺は部屋を出た。
俺の居た部屋は2階の角部屋だ。
そこを出て、L字になっている通路を進んで行く。
その先は1階へと降りる大階段になっており、その手前に鎧を着た兵士が二人立っていた。
二人ともバトラーで、ランクはDだ。
「む、貴様は……もう動けるのか?」
此方に気付いた兵士達が、驚いた様な表情で俺を見る。
彼らの反応からして、どうやら回復には本来もっと時間がかかる様だ。
瞑想を切り上げるのが少し早すぎたか……ま、やってしまった物は仕方ない。
毒無効は隠していく予定だったりする。
チートをひけらかすのもあれなので。
「ああ、俺は頑丈でね。ところで……出来たら訓練できる様な場所を借りたいんだが」
「少し待て。フジ様、宜しいですか」
兵士が、階段正面にある大部屋の扉をノックして中に声をかける。
どうやら、マウントフジの執務室か何かの様だ。
「どうかしたのかい?」
婆さんがドアの扉を開き、顔を出す。
「はっ!例の御仁が、修練用の施設をお借りしたいと言われております」
「ん、何を言って……おや、もう動いて大丈夫なのかい?」
俺に気付いたフジさんが、一瞬驚きに目を丸める。
だが一瞬だけだ。
直ぐに笑顔になって、俺に尋ねて来た。
流石人生経験が長いだけあって、切り替えが早い。
感心する。
「ああ、頑丈なタイプでね。それより、訓練できる場所を貸して欲しいんだけど」
「成程。出来ればもうしばらく安静にしていた方が……って言うのは、余計なお世話なんだろうね。彼を屋敷の訓練所に案内して上げなさい」
「はっ!畏まりました!ついて来い!」
フジさんに命じられ、兵士の一人が、俺を訓練できる場所へと連れて行ってくれる。
屋敷の脇にある、かなり広いスペースだ。
人影は特にない。
「何か必要な物があるなら、そこの倉庫の中に訓練用の器具がある。それを使え」
それだけ俺に言うと、兵士はそのまま去っていった。
「どうも歓迎されてないっぽいな」
兵士の態度から、それがハッキリと分かる。
何が気に入らないのやら。
ま、気にしても仕方がない。
「取り敢えず始めるか」
早速俺は、今までできなかったタイプの訓練に取り組む。
それは紋章を使った訓練だ。
紋章で肉体を強化して訓練するのか?
残念、ハズレ。
その逆。
負荷をかけた訓練だ。
紋章は肉体を強化させる事も出来るが、その力を反転させると、肉体に強い負荷を加える事も出来た。
漫画とかである、重力何倍的な物をイメージして貰うと分かりやすいだろう。
ああ、言うまでもないとは思うが……実際に高重力下で訓練なんかしたら、多分内臓とか脳がやられるからよい子はマネしちゃだめだぞ。
因みに、紋章の逆転効果で負荷がかかるのは筋肉だけだからその手の心配は無い。
「おおっく……こりゃ効くな……」
早速試してみると、全身に強く抑え込まれた様な負荷がかかる。
それに逆らう様、俺は体を動かす。
「この訓練方法が、漫画みたいにハマってくれると良いんだがな」
漫画だと凄い成長が期待出来る訓練方法だったりするが、実際にやったらどの程度になるかは正直分からない。
あくまでも受け売りだ。
まあ……効果がない様なら、その時は普通の訓練方法に戻すとしよう。
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